シムシティーのバックグラウンド “コンピュータ・ソフトと教育”
 ウィル・ライト インタビュー   インタビュアー/多摩 豊


ウィル・ライト 著 多摩豊 訳,ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて,角川書店,1991

多摩豊(以下T) すごく一般的な話になっちゃうんだけど、ウィル自身のコンピュータ・ソフトウェア論から話をはじめましょうか?
ウィル・ライト(以下W) その話をはじめると止まんなくなっちゃうよ(笑)。なにしろそればっかリ考えているんだから。
 シムシティー以外の話をする機会ってそうそうないからチャンスだよ。じゃあ、まずウィルにとって、シミュレーション・ソフトウェアを作ることの意味っていうか目的っていうか、そういうことから。
W 僕がいちばん興味を持ってるのは、コンピュータ・ソフトウエアと教育の関係なんだ。
 教育とか勉強っていうと、普通は生徒が学校へ行って“この本を読んで内容を覚えなさい”って命令されるだけだろ?教わるほうにはそうしなきゃならない理由が全然ない。まあ、もちろんテストに受かるためとか、いい仕事につくためとかって理由はあるかもしれないけどね。とにかく、僕にはこれが教育の最善の方法だとは思えないんだ。大学にいたころはずいぶん苦労したよ。ただ単に単位を取るためだけに、僕にはちっとも興味が持てないようなことまで勉強しなけりゃならなかったからね。
 ずいぶんわがままな学生だったんだ。
W そのうち、自分が面白いと思ったこと以外は全部無視するようになっちゃったけどね(笑)。
 で、その大学にいたころ、最初のコンピュータ・ゲーム、モノクロのフライト・シミュレータを手に入れたんだ。
 サブ・ロジックの?
W そうそう。僕のはディスク・バージョンのいちばん最初ので、マシン語のパッチをあてないと走らないってとんでもない代物だった(笑)。
 でもね、とにかく僕はこれに心底ビックリしたんだ。ひとつのモデル、多少のリアルさを持った何かがコンピュータの中に創られて、プレイヤーがそのモデルの中で遊ぶことができて、おまけに楽しみながらそのシステムに関していろんなことを学ぶことができる。ちょうどパイロットの免許を取ろうとしてたところだったんで、こんな小さなプログラムでもずいぶんいろんなことが学習できるのに驚いたってわけさ。
 それで、教育とコンピュータ・ソフトウエアの関係について考え始めた?
W うん。とにかく今の学校教育のシステムにちょっと疑問を持っちゃったってところかな。学枚教育って、仕組みとしてはよくできてるんだろうけど、個人を対象にしてないような気がしたんだ。それで教育論みたいなことをずいぶん勉強して……。
 他のことは全部無視した(笑)。

“遊んで学ぶ”
※モナソリ・・・実はマリア・モンテッソーリ(Maria Montessori)のこと。英語発音でそう聞こえたのだと思われる。本文にも書かれてるとおり、「自立した子どもを育てる」為のモンテッソーリ教育法を確立した。
モナソリ・トーイではなくモンテッソーリ教具と言う呼び名で日本にもある。英語ではMontessori Toys。
参考:
 日本モンテッソーリ教育綜合研究所
W そのうちに、実際に学校まで作って、とっても興味深い理論を実践したモナソリ(※)という人のことを知ったんだ。彼女の理論の基本は“子供は自分自身で学習する。誰も子供に教育を行なう必要はない。必要なのは子供が学習できる環境を与えることである”ってものでね、モナソリ・トーイ(※)っていう、今の教育用玩具の元祖みたいなものを開発したんだ。いろいろなブロックを組合わせたりして遊んでいるうちに、数学の概念なんかがわかっちゃうっていうおもちゃなんだけどね。で、それを子供にテーマを持って与えるんじゃなくって、とにかく教室に置いておく。子供たちは自分が興味を持ったブロックで勝手に遊び、自然に学習する。大人が゛教育″するより、このほうが学習する速度が速いっていうんだ。
 好きなことやってて自然に教育されちゃうってりけね。
W そうそう。で、今度はこの理論をコンピュータ・ソフトウェアにあてはめて考えてみたんだ。といっても、いわゆる“教育用ソフトウエア”の話じゃないよ。ああいったものは既存の教育手法をコンピュータ化しただけで、本を読んだりノートを取ったりするかわりにディスプレイとキーボードを使ってるだけだからね。
 大事なのは遊ぶってことと学ぶってことの関係みたいでね、何かを学ぶっていうことはとってもインターアクティブなプロセスらしいんだ。
 インターアクティブなプロセス……日本語に訳すとわかりずらい言葉になっちゃうね(笑)。“相互作用の過程”じゃどういう意味だかわかんない。
W じゃあ、もう少しわかりやすく説明しよう。例えば、キミが何かを操作して、その結果かとうなるかを観察してるって考えてみてほしい、もし結果として起きることが興味深いと、それを観察してるキミは“面白い”っておもうはずだ。結果が興味深ければ興味深いほど、面白さはどんどん増す。面白ければもっとやってみようって気になるだろ? で、また何かを操作する。これがインターアクティブなプロセスってわけさ。
 何かをすると面白い結果につながって、そのことが、また何か新しいことをやってみる動機になるっていうのが“相互作用”ってわけね?
W そう。面白ければ、何度もいろんなことを試してみようって気になるだろ? これを繰り返す、ようするにたくさんインターアクトすればするほど、キミは何かを学ぶことになるんだ。いろいろやってみて、その結果として起きたこととの関係を学習するってわけさ。そうやって考えてみるとね、“面白い”ってことと“学ぶ”ってことは、結局のところ同じことなのかもしれないんだよ。
 子供、それも1歳から3歳までの幼児が学習する速度っていうのはものすごいんだ。幼児はこの期間の間に世界の仕組みのほとんどを学習しちゃうんだけど、これってようするに遊びの結果なんだ。
 遊んでるうちに学習する?
W 子供はね、自分の頭の中に世界のモデルを作るらしいんだ。で、現実の世界でいろいろなことをやってみて、その“学習”した結果を元にして自分の頭の中のモデルをどんどん本物の世界に近づけていく。作ったモデルが現実と全然違ってた場合は、モデルを一から作り直す。ある程度モデルが現実世界に近づくのが2歳ぐらいで、だからそれより前の記憶ってのがないんじゃないかって説もあるんだよ。
 まあ、とにかくそれはおいといて、この頭の中のモデルって考え方とコンピュータのシミュレーションってどこか似たようなところがあるんじゃないか、僕はそう思ったわけさ。頭の中のモデルのかわりにコンピュータの中にモデルの世界を作って、そこで遊ぶことで学習ができるんじゃないかってね。僕がシミュレーション・ソフトを作る目的っていうのはここにあるんだ。遊んでいるうちに、シミュレーションの題材になったシステムについて何か学習してもらえるんじゃないかって期待してるわけさ。

“遊んでるうちにできたシムシティー”
 さて、いよいよシムシティーの話なんだけど、そもそもどうしてこんなソフトを作ろうって思ったわけ?
W
※Raid on Bungeling Bay(日本名バンゲリングベイ)のこと。当時としては異色の全方向スクロールのヘリコプター爆撃ゲーム。時間が経つごとに工場から「生産」されてくる敵が強くなるなど、リアルタイム性を持ち込んだ意欲作。日本ではファミコン版が有名だが移植の出来が悪かったせいか評判は...斬新すぎて子供には理解できなかったのでは、という説も。詳しくはこちら
 べつに“さあこれからシムシティーを作るぞ”なんて考えて始めたわけじゃないんだ。シムシティーのいちばん元になったソフトって、実は別のゲーム(※)のためのグラフィック・ユーティリティーだったんだよ。画面に街を描くために作ったお絵描きソフト。ところがね、このユーティリティーを使って街の絵を描いているうちに、街を作るほうが面白くなってきちゃったんだ。それで作ってたゲームをほっぽらかして、ユーティリティーばっかりいじりはじめちゃって。
 じゃあそのときは、ゲームにしようとかって考えてたわけじゃなかった?
W 全然考えてなかった。それで街の絵を描いているうちに、今度は“道路があるんならやっぱり車が走ったほうが面白いな”なんて思い始めて、アニメーションで動くように変更したりして。ようするに、そのユーティリティーにいろんな要素を加えて遊んでたってわけさ。
 そうしていろいろやってるうちに、グラフィック・ユーティリティーが都市のシミュレーションに発展していったんだね。
W そうしようって考えたわけじゃないんだけどね、やってるうちにどんどん面白くなってきて気がついたらこうなってた。
 それと、ちょうどそのころ読んだSF小説にもちょっと影響された部分があるね。
 SF小説?
※スタニスワフ・レム(スタニスラフ・レムとも)のCyberiadaというタイトルの小説の中の一節で「第七番目の旅」。The Mind's I Vol.2を見たものと推測される。詳しくはこちら
W スタニスラフ・レムの短編(※)なんだけど、一つの世界の要素が全部詰め込まれてる小さな箱がでてくる話なんだ。それを読んで“ああ、これならコンピュータの中に作れるじゃないか”って思ったわけさ。
 そのあたりからグラフィック・ユーティリティーじゃなくなってきた?
W そうだね、そのころからだんだん都市のシミュレーションを作るほうに興味がわいてきて、都市計画の本なんかを読み始めた。で、勉強した結果をどんどんプログラムに組み込んでいったんだ。

“面白くなければ意味がない”
 そうすると、最初から何か目的があって始めてわけじゃないんだ。
W 自分で遊んでて面白いからどんどんその先を作ってみたくなる。ようするに僕自身がソフトとインターアクトして学習したってわけだね。最初のうちは都市のことなんかはほとんど知らないから、僕が作ったモデルもちゃんと動いてくれない。そうなると、なんでうまく動かないのかが気になる。で、都市についてもっといろいろ調べようってことになるわけさ。新しい要素を一つ加えようとして、結局5つぐらい別のことを調べなきやいけないなんてね。
 で、その結果としてできたシムシティーを遊んで、プレイヤーは都市のシステムについて学習する?
W そうそう。だけどここで大事なのは、どうしたらプレイヤーが“面白い”って思うソフトにできるかなんだ。
 自分でソフトを作ってるときはそんなことは考えなくてもいいんだよね。自分が面白ければそれでかまわないわけだから。だけど誰かに遊んでもらおうと思ったら、面白くなければダメなんだ。たとえ完璧な都市のシミュレーションができたって、面白くなければ誰も遊んでくれない。遊んでもらえなければ教育も何もあったもんじゃないからね。
 それで“面白い”と“学ぶ”は同じことって話になるわけだ。
W プレイヤーがいろんなことをやってみて、その結果が思ってもみなかったようなことになる。そうすると“どうしてこうなるんだろう? どうして思ったとおりにならないの?”って考えると思うんだ。これが“面白さ”のポイントで、“学ぶ”ってことの基本でもあるんだ。
 もし、何をやっても自分で考えてたとおりの結果が得られるとプレイヤーは飽きちやう。それに、これじやあ何も学習することにならないよね。結果がわかってるってことは、そのシステムを理解してるってことだから。
 プレイヤーがいろんなことを試すと、思ってた反応だけじやなくっていろんな予期してなかったことが起きる。これが“面白い”につながって、その結果としてプレイヤーはそのソフトがモデル化しているシステムの仕組みについて学習することになる。“ああ、こうするとこうなるのか!”って感じでね。
 いちばん大事なのは“面白い”ものを作るってことなんだ。で、その作ったものが現実の世界になんらかの形で応用できるようだと、学習とか教育ってのは自然に達成されるわけだよ。

“リアリズムの意味“
 ところでシミュレートの精度っていうか正確さっていうか、そういうことに関してはどう考える?
W 今も話したけど、大事なのは“面白い”ってことなんだよね。どんなに“正確”なシミュレーションでも、遊んでて面白くなきゃ意味がない。
 シムシティーには正確じゃないところがたくさんあるよ。なにしろ、本来は数字で表現すべきところをほとんど絵やアニメーションで表わしてるんだからね。でも、もしシムシティーがグラフや図表だけのソフトだったら、誰も面白いなんて思わないだろ?
 それと、シムシティーで僕がいちばん表現したかったのはいろんな要素や活動が相互に影響しあってる都市のシステム全体の流れだったんで、それをわかりやすく表現するため誇張したりした部分もあるよ。
 例えば環境汚染なんかは、本当なら影響が出るのにもっと長い時間がかかるはずなんだけど、プレイヤーにすぐ理解してもらえるように影響が早くでるようになってる。だって、工場を作ってから20年も30年もたって影響が出ても、誰も原因がどこにあるかわからないものね。
 そうすると、個々の要素の正確さより、都市のシステムの仕組みの再現が目標だったわけだね。
W できるだけ現実の都市の仕組みを再現して、その上でプレイヤーが予期してなかったような興味深い結果も起こす。都市を構成するいろんな要素の相互のかかわり合いをソフトの中に組込むようにして、プレイヤーが遊んでいくうちにその関係がどうなっているのかを学習してくれればうれしい。カッコよくいえばこういうことになるのかもね。

“シムシティー完成まで“
 で、シムシティーができ上がった………。
※日本では「米ブローダーバンド社」という方が一般的か。ロードランナーなどを送り出したかなり古参の大手ソフトウェアメーカーだったが、現在は他の会社に吸収され、教育ソフトを供給しているようである。
※コモドール・・・米コモドール社のパソコン、コモドール64のことだと思われる。その後、後継機(?)であるアミガ(AMIGA)でSimCityが出る。
W 実際には、これですぐにできたってわけじゃないんだ。僕が作ったシムシティーの原型は、ブロダーボンド社(※)の人にはコンピュータ・ゲームには見えなかったらしいんだ。当時のブロダーボンド社のゲームっていうのは、もっとアクションゲームっぽいものだったからね。で、しばらく僕もこのソフトをいじらなくなった。
 実はね、この原型はコモドール(※)で作ってたんだけど、マシンの限界まで使いきっちゃっててそれ以上何にも付け加えることができない状態だったんで、僕ももう面白くなくなってたんだ(笑)。それと娘のキャシディーが生まれて、世話するのでしばらく仕事を休んだしね。
 その原型っていうのは今のシムシティーとはだいぶ違うものだった?
W うん。なにしろコンピュータの能力にずいぶん差があったから、今のシムシティーとはかなり違うものだったよ。ところがね、これをジェフ(マキシス社社長)に見せたら、彼は絶対これはヒットするソフトになるからマックを使ってもっと煮つめたほうがいいって言い出したんだ。それで僕はマックでまたこのソフトをいじり始めた。マックっていうのはかなりパワーがあって、またいろいろ付け加えられるようになったんで……。
 面白かった(笑)。
W そうそう。それでやっと今のシムシティーみたいなものができてね、最後にブロダーボンド社の人のアドバイスを入れてシナリオをつけたんだ。面白かったのはここまで。その後、デバッグとかに数カ月かかった。
 まあ、デバッグが面白いって人はなかなかいないだろうけと………とにかく、それで発売になった?
W 結局、マキシス社が作ってブロダーボンド社が流通に協力してくれるって形になってね。だけど、正直な話、誰もこのソフトがこんなにヒットするとは思ってなかった。まあそこそこ売れるだろうとは思ってたけどね。

“シムシティー協奏曲”
 こんなに話題になるとは思ってなかった?
W 今でもそう思ってるけど、シムシティーっていうのは普通のコンピュータゲームとはだいぶ毛色が違ってる。だからゲームソフトみたいに売れるなんて思ってなかった。
 ジェフは最初にこれを見たときからヒットするって確信があったみたいなんだけど、僕自身はそんなことはないだろうって思ってた。ブロダーボンド社でも、もっとゲームらしくしたほうがいいって言われたしね。まあ変わってるソフトってことで少しは話題になるかもしれないけど、大ヒットするなんて考えてもいなかった。だからマックの雑誌なんかで騒がれ始めたとき、僕自身ずいぶん驚いたよ。
 そこからシムシティー騒動が始まるわけだ。
W 騒動ってほどじゃないけど、とにかくシムシティーを作る前と作った後じゃあ、ずいぶんいろいろと違ってきたことは間違いないね。わざわざ日本から何人も取材の人が来たり(笑)。
 取材はたくさん来た?
W 雑誌の取材はいくつかきたね。何度も同じような話をした憶えがあるよ。でもいちばん驚いたのは、コンピュータやゲームとは関係ないところから、話を聞きたいって来た人がいたってことかな。NASAって知ってる?
 ロケットを打ち上げるNASA?
W そう。そのNASAの研究員の人がシムシティーのシミュレーションの仕組みについて話を聞かせてくれって来たときは、さすがにびっくりしたよ。
 そういえば、ブルース(ジョフィー)はMITと共同でシムシティーの実用化の研究をしてるっていってたしね。
W いろんな学者さんとも話す機会が持てるようになったね。おかげで、今作ってる新しいソフトも専門家と共同で作れることになった。
 シムアースのこと?
W 実は、今僕の頭の中はシムアースのことで一杯なんだ。今はあれを作るのがいちばん面白い。

“他のデザイナーたちとの話”
 去年、機会があってアメリカのゲームデザイナー何人かと会ったんだけど、みんなシムシティーには注目してたよ。
W ありがとう。たしかにシムシティーを作ってから、業界でもいっきに有名になったかもしれないね。
この間サンノゼで、コンピュータゲームを作ってる関係者だけを集めたコンファレンスがあったんだけど、今年は僕もシムシティーの話をしてくれって頼まれたからね。
※地球環境問題をテーマとしたシミュレーションゲーム・・・らしい。クリス・クロフォードは「ドンパチではない戦争」冷戦を扱った戦略シミュレーション、バランス・オブ・パワーの制作者でもある。
 コンファレンスの主催者のクリス・クロフォードは、環現問題を扱ったバランス・オブ・ザ・プラネット(※)っていうソフトを出したばかりだったね。
W クリスは芸術家肌の人だね。彼のバランス・オブ・ザ・プラネットは環境問題をテーマにしてる、僕のシムアースは、環境ももちろんテーマの一部たけど、それより惑星のシステムの仕組みを表現することが目標になってる。目指してるところがちょっと違うんだ。それとね、クリスと僕とでは、ソフトに対する考え方で違うところがある。僕のソフトに対する考え方はさっきも話したけど、クリスはコンピュータゲームを新しい芸術にしようって考えてるところがあるみたいだね。それと、クリスは僕よりも多少大人を対象にしてソフト作りをしてるみたいだな。彼なんかと話すようになったのも、シムシティーを作った後の変化の一つかもしれないね。才能がある人といろいろ話すのはいい刺激になるよ。

“シムアースについて”
 それじゃあ、今いちばん面白いものの話を少ししてもらおうか。
※シムアース・・・本文にも書かれているように、J.E.ラブロック教授の提唱した「ガイア仮説」に基づいて作られた難しい類のシミュレーション。・・・もはやゲームではないという感じで、一般ユーザーからは支持されず。
W シムアース(※)は、ガイア仮説っていう学説に影響されて考え始めたんだ。ジェームズ・ラブロック教授が唱えてる説なんだけど、簡単にいうと惑星を一つの生命体にみたててその仕組みを考えようって学説でね。動物や植物だけじゃなくって、鉱物とかも惑星の仕組みの一部って考える。空気の流れ方、海流、天候、とにかく惑星の仕組み全部を一つの生き物みたいに考えようって説なんだ。
 シムシティーもそうなんだけど、今度も僕はこの惑星ってシステムの仕組みをうまく理解できるようなソフトをって考えてる。遊んでいるうちに惑星の仕組みが理解できるようなものを目指してるんだ。
 シムシティーよりだいぶスケールが大きいね。
W ラブロック教授とか専門家の人にも協力してもらってる。惑星の仕組みっていうのは理解てきないからね。とにかく、今はこれを作るのが面白くって仕方がないよ。作りながら自分がどんどん惑星の仕組みを理解してる感じがするしね。
 具体的にはどんなソフトになるんだろう?
W シムシティーの時と同じで、最初からこういうソフトを作るんだって目標があるわけじゃないんだ。僕はそういうやりかたはしない。さっきも話したけど、自分でソフトをいじりながら遊ぶ。それがそのうちにソフトの格好になってくるんだ。
 ただ、やっぱり面白いものを目指してるのは変わりないよ。グラフィックやアニメーションでいろんなことが面白く表現できて、操作が難しくないもの。プレイヤーが何かすると面白い結果につながるもの。これは基本だと思う。そうだな、これはもしかすると新しいおもちゃって考えるのがいちばんいいのかもしれないね。ソフトウエアおもちゃってとこかな。
 さて、最後に日本の読者にメッセージを。
W シムシティーで、とにかくいろんなことを試して楽しんでください。毎回違うことを試してみて、もうこれ以上思いつくことがないってくらいまで遊んでみてください。皆さんがシムシティーで遊んているあいだに一生懸命シムアースを作りますので、こっちも楽しみにしててください。
 長時間おつき合いいただいてどうもありがとう。シムアース頑張ってください。期待してます。


ウィル・ライト 著 多摩豊 訳  「ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて」より 

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