第三章 SimCity の教育利用


第1節 SimCity 3000 Teacher's Guide

 そこでSimCityを実際に教室に導入する為に作られたSimCity 3000 Teacher's Guideを検証しながらSimCityの教育性と利用の方法を考える。


(1)Teacher's Guideの内容

 SimCity 3000 Teacher's Guide(以下TG)は、コンピュータや教育的な本の執筆や編集に15年以上携わっているというMargy Kuntzが執筆したもので、SimCity 3000の教室での利用を目的として著されている。彼女はこの他にもSim SafariやSim ParkなどのようなゲームソフトのTeacher's Guideを執筆している。TGはPart1から3までの三部構成となっており、Part1ではTGについての説明と使用法、効果的な学習体系について、Part2では実際にシミュレーションを行わせる作業を含んだ教育方法について、Part3ではSimCityの基本的な操作方法とアメリカの実在する5都市の詳細データなどが書かれている。また、このTGが目指す目標がPart1に述べられているので以下に抜粋した物を掲載しておく。

 教育ソフトの提供者として、我々の第一の目標は、それらのシステムをプレイする方法を教えることで、人々がこの複雑な都市システムの理解を深めることを手助けすることです。そのために我々は、ゲームという形で様々な情報を提供します。そしてそれは教育と学習をいっそう楽しいものにするでしょう。SimCity 3000(やその他のシミュレーション)を使うことにおいて、我々の最大の目的は、シミュレーションを越えて見ること・・・すなわちSimCity 3000から得た知識を実世界に反映することを手助けすることなのです。SimCity 3000は、生徒達にとって何気ない抽象的なものではあるが、実世界には何千という都市に何万という人が同じような必要・要求・希望を持っていて、我々は人々や都市、地球、そして自分自身の生活に、敬意と注意を持って扱うべきであることを明らかにしてくれるものなのです。多くの部分で「抽象的すぎるものだ」と考えられてきたものに取り込むことや、一般的によく知られていない活動をする機会を生徒達に与えることで、彼らが都市や都市経営のことについて学ぶだけではなく実世界の微妙な固有のバランスの認識やそのための感性を発達させることを我々は望むのです。10)

 これは先にあげた都市シミュレーション学の定義と沿うところが大きく、参考とするべき点も多い。その為に研究会にてその内容についてさらなる追及を行った。


(2)構成とその分析

シミュレーション教育と限界について
 この中でシミュレーション教育のことを「結果ではなく過程(プロセス)を学ぶことが出来る」とし、従来のように知識の獲得による事実と原則を組み合わせるだけの教育だけではなく、ある状況に応じて原則が適用されたときに何が起こるのかを発見する種の教育であるとし、これは生徒達に想像力を促し、自らが決定したことに対する反応や変化を従来の学際的な学習を踏まえて理解でき、学習の体系が教師中心の物から生徒中心の物に変わるというのである。また同時にSimCityというシステムシミュレーションといわれる種のゲームソフトを用いる時に注意しておかなければならないシミュレーションの限界を常に理解しておくべきだとし、その注意点について述べられている。

 どのシミュレーション部分も同じように複雑ではあるが、やはりそれは単純なもので、実際の世界には決して追いつくことができない人工的なシステムなのです。だから学生達はシミュレーションの限界や、コンピュータの中でのシステムの働き方と現実世界でのシステムの働き方との違いに注意しなければならないのです。そしてすべての観察と結論から、学生はどのようにシミュレーションの限界が、実験のデザインや集めることのできたデータ、および実験の結果に影響を与えたかを熟慮するべきなのです。一般に、シミュレーションを扱う時に出される特定の結果は不正確であるかもしれない。しかし、一般的な傾向は(単純なシミュレーションでさえ)かなり正確である傾向があります11)

 この注意点はどのシミュレーションにも言える共通点であり、シミュレーション教育をする上で非常に重要となる点である。SimCityの限界点については次の節で検証する。

導入方法
 SimCityを教室に導入する時にどのような目的と手法を持って用いるかという点に関しては、(教師が)担当する科目や学習テーマに合わせてTGに書かれている活動のサンプルを参考にすれば様々な利用方法が考えられるとし、グループ学習の形式などもいくつか述べられている。導入する理由についてはコンピュータを使った授業としてだけ使うことも出来るし、従来の授業と絡ませて使うことも可能であるとしている。学習体系は個人個人で行う方法や、グループ活動として行う場合に分けられ、グループ活動ではさらにそれぞれのグループが別々のことをやって全体でそれを評価する方法と、それぞれのグループがまったく別のことを行うという方法の二つがあげられている。コンピュータ設備が完備されてきている近年の学校教育ならば個別の学習も可能であるが、グループ学習の可能性にも着目したい。なぜならばSimCity 3000は非常に複雑であり、かつ実際の都市運営のように各部門ごとに分けることが従来の物以上に可能であるために、これは非常に有効な手段とも言える。また、共同で都市を作り上げていく作業というのはまちづくりの意識づけ、という方面の利用法ならば大きな意味を持つことも考えられる。この点についてはモデルを作りながら後で取り上げるとしよう。これらは後述するシミュレーション学習の例などとともに導入する教師がすべて選択するようになっており、ニーズに合わせて使うことが出来るようになっている。また、これらの情報共有の場があれば非常に効果的な導入形態を作ることが出来るようになる可能性もある。

学習活動のサンプル
 Part2では実際に教室で行うSimCityを利用した学習方法のモデルが用意されており、Unit1では都市の計画とデザイン、Unit2では都市の行政サービス、Unit3では都市経営(運営)というように分野的な関係から3つのユニットに分けられている(詳細は別途資料参考のこと)。

 ユニット内の構成は、@ユニットの説明、A現実での背景の説明(都市計画ならばどういう事を考慮に入れているのか等)、B活動を行う前にクラス内で行うディスカッションの例、C実際に行うシミュレーション、というようになっている。活動前に必ずその目的と扱う物についての説明をすることは常識的なものとして、学生達に持っている知識の範囲でディスカッションを行わせる、ということは特に対象が見えない場合は非常に有効な手段である。また、普段見えていない物を教室という場で疑問と推論を共有し、実際の計画手順や理論的手法にはどんなものがあるのか、といった意識付けをするという点でも大きな効果があると思われる。特に「都市」というものは普段意識しないことが多く、その詳細についても成人でも理解している人は少ない。対象年齢の設定が12歳程度ということなので、それぞれの内容は専門的と言えるほどでもないが、そのままでもこれを学習機会とすることは可能であろう。

 学習活動はどれも@目的、A活動内容についての説明、B応用という構成になっており、特にAでは活動内容の説明を行うとともにシミュレーション活動を順序立てて説明しており、シミュレーション終了後に、シミュレーション内から手に入れた情報や数値を元に質問を出すという形になっている。Bの応用では時間がある場合として付け加えられている活動のサンプルがいくつか用意され、実際のデータを元にシミュレーションを行ってみたり、実際行われたストライキについて調べたりというようにシミュレーションで再現する他にも実際の出来事との関連性を持たるとともに、シミュレーションで行われたような結果が引き起こされた原因の調査をさせることなどについて述べられている。これは常にゲームである、という意識や、まったくそのことについて知識がない、考えたことのない場合はシミュレーションを行わせ実際の事象を調べることで都市の複雑に絡み合ったシステムを理解してもらうことが可能なのである。内容的にはやや高学年向けの活動が多いが、そのシステムの理解のあとに解決する手法などを編み出すようになるのが創造性と主体性を喚起する教育にもなるだろう。
10) Margy Kuntz『SimCity 3000 Teacher's Guide』
11) 同上文献
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