第三章 SimCity の教育利用


第3節 教育利用の形

 SimCityはそのゲーム性とTGを元に前節であげた点を考慮に入れながら教育活動として行えば十分に社会科や数学教育に使うことも可能である。そして、利点を活かすことで小学生用のまちづくり教育や大学生用のまちづくり教育など様々な利用方法が考えられ、それは新しいプレゼンテーションとしてではなく、ツールとして供給するのである、ということを注意しておくべきであると言える。


(1)教室にSimCityを

 どのような学習のための導入するのか、というのはカリキュラム構成上大きな問題と言えるが、独立したCAI活動として、もしくは社会科教育に用いるのが適していると言えるだろう。CAI導入のモデルはTGに頼らないで独自にプログラムを組むことによって個性に応じた様々な教育モデルの適用が可能と言える。社会科教育、特に地理学習においてはシミュレーション教材が多く用いられることが多くなったため、それぞれの特殊性とテーマに沿った活動が出来るかという点を考慮し、比較して導入を考えるべきであろう。既存のコンピュータを利用しないシミュレーション教材は、実際の詳細地図等を使うことが出来るために地域の視点(歴史的観点を含む)からアプローチするような場合に向いていると言える。逆にSimCityのようなコンピュータシミュレーションは実際の都市要素間の関係や公害などの都市問題をリアルタイムに扱えるという魅力がある。また、このような社会科教育をしながらCAIを行うことも可能である。

 このように場合によって使い分ける場合と、常に使い続ける場合が考えられる。これはその学校や教室の環境、教師側のテーマ選定によって大きく変化がある点であろう。扱うテーマについては、小学校高学年〜中学生程度ならば特に日本とアメリカの違いを考慮に入れることせずにTGをそのまま用いることも可能である。活動内容と応用についての教師側の学習は必要ではあるが、現在は市政情報をWebでも手に入れることができ、決して難しいことではなくなってきている。ただし、Unit1の都市計画について行う活動については、少々難度が高いので対象年齢を上げるなり地理学習をベースとして再編集し直すことも必要であろう。

 高校生程度への利用を考えるならば、社会に出る学生もいることから社会的システムを中心に利用することも可能である。具体的な利用法としては住宅地と就業地と立地関係や出生率の変化による人口統計といった社会システムを取り扱っても良いし、政策的なアプローチによる大気汚染防止のモデルや、原子力発電所等のNIMBY施設の存否と立地の問題など実際に生じている社会問題を利用しても良い。このような活動は地理カリキュラムの範囲に当てはまらなくなるので、独立したCAI活動として行う形が望ましいだろう。

 SimCityを教室に導入する場合に注意しなければならない点は、どのような目的と形で導入するかという点であるが、これは学校側の教育理念に基づいて行ってもらいたい。


(2)講義室にSimCityを

 少子化が進みながらも、伸び続ける大学進学率(平成11年で49.1%13))の為多くの人が大学へと入るようになった。しかし、就職の為という目的で入ってくる学生も多く、本来の大学の姿であった専門的教育が学生には必要とされていないといった現状もある。この現象は多くの先進国が抱える問題で、多くの国で大学教育の改革が求められている。それは従来のような半ば押しつけ的で抽出的な教育が主流であった大学が広く多くの人に教授する、というサービス業への転換を表しているという声もある。また、大学が本来するべきである地域貢献を行う必要性も問われ、公開講座などの活動もあるが、学生主体の活動とは成り得ていない。都市を情報処理の技術でもって問題解決する21世紀型のまちづくり・地域づくりのリーダーを養成することを目標としているこの名城大都市情報学部も、現状を見る限りその目標達成には遠いというのが現実と言えるだろう。

 現代の大学は、大学生のライフスタイルの変化と相まって従来のように専門的な人材を育成する場ではなくなってきており、大学を卒業してなお専門学校へ通うというケースも少なくない。それほどまでに現代の大学では教育目標が乏しく、浸透していない。この流れは学生側に問題があるだけではなく、教える側にも問題があるとして多くの大学で講義の形を変えようというような動きも盛んとなってきている。経営系を始め、ゲーミングを講義に取り入れることが非常に多くなってきたこともそのような流れによるところかもしれない。SimCityを使った講義を導入することはそのような事態を急変させることが出来るわけではないが、専門的な知識をゼミナール以外でも活かすことが出来るようになれば多くの学生が無意味だと思ってきた学習が重要なものだと感じ、そして新しい形を作っていくことが可能ともいえる。近年のネット社会ではほとんどが若い人材のエネルギーを利用しているように、本来学生が持つエネルギーとは時代を揺れ動かすほど大きな物で、且つまちづくり等にも必要なものなのである。それが今の大学にはない。このことを考えてみても大学の研究能力と体制を活かすことが出来るようになるためにも、主体的な学習と創造的な活動を行うようになることが真の大学人の教育と言えるのではないだろうか。

 また、SimCityを利用した都市シミュレーション学によって、従来他の分野として取り扱わなかった部分を簡単に紹介するという意味でも、本学部のように都市を専門としている学部以外でもSimCityを使う講義は十分考えられる。大学講義での利用の例はまちづくり教育の形をとりながら次章で詳細に述べる。


(3)自己学習

 SimCityというものがもつ魅力は、常に疑問を持たせることに成功しているからである。それは単なるダンジョンを深く突き進めるようなものでも多くの敵を倒すといったものでもない、シミュレーションを行うことによって現実の事象について興味を持つようになるのである。なぜこの道は渋滞しているのだろうか、どうしたらこの渋滞を解決すればいいのだろうかといったように交通一つ取ってみてもまるで都市に関わる専門家のように疑問を打ち出し、対策を練る。しかし、その作業のどこが専門家と違うかといえばあくまでもその行動は自分の経験と推測から来ているのである点が異なるのである。すなわち、理論を持ってして対策を練ることが出来ないのであるといえる。その為に試行錯誤を繰り返し何度も何度もシミュレーションを行い、やっと形を見つけることが出来るようになる。このプロセスは専門家が培ってきた理論が生まれるプロセスと非常に似ているのである。しかし実際と同じように、何度も繰り返し試すよりも一定の法則を見つけだそうとし、その法則を利用して今度は計画をするようになる。今後、SimCityをプレイすることによって同じように疑問を感じるならば、恐らくその法則を探そうとするだろう。こうやって、一見SimCityというゲームをプレイしている中にも実際の定理を学び、そして活かす手段を考えるというプロセスで学習をしているのである。これがWrightの目指したシステムシミュレーションというゲームから学習を行うという形なのである。

 現在、その自己が知りたいと思う都市の要素についての検証も込め、都市シミュレーション学研究会WebサイトにてWeb会員の協力の下で行っている。彼らが目的を持ってゲームをしながら都市の論理に触れることで、今まで見えていなかった社会のシステムも見えるようになるかもしれない。これはインターネットを活用した教育の形として実験中の一例であるが、今後ゲームだけでなく他のまちづくりの活動を通しても増えていく形であろうと思われる。これは先に挙げた教室での利用などの効果を一層高める可能性もある。
13) 文部科学省Webサイト http://www.mext.go.jp/

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