第三章 SimCity の教育利用


第4節 まちづくり教育

 まちづくり教育の利用体系は画一化されておらず、様々な方法がある。その詳細については説明を省くが、第T章で述べたように、理論を知り、手法を形成・応用し、自分の住む「まち」の将来的ビジョンを描き、形成する為に行う手助けになるものがまちづくり教育である。前節で述べられているような教育もまちづくり教育に含まれるのである。


参加の手段として
 参加の手段として考える場合どうしても念頭に置かなければならないのは、なぜ参加しようとしないのか、という点である。誰しもが生活環境の変化を望んでいるわけではおらず、閉鎖的な立場からこのような活動に参加をためらう人も多い。しかし政治の問題をはじめ教育、環境、生活文化など誰しも本当は変えなければいけないと思っていることが多くあるはずであり、それを胸のうちに秘めているのである。なぜ行動を起こさないのか、理由は様々であるが確実に言えることは「知らない」そして「機会がない」のである。どうやったら政治が変わるのか、どうやれば環境を良くするのか、それを大学で学んでいる者でさえそうであるのに、ましてそのような特殊な教育を受けていない人には、何がどう関わっていてどうすれば変わるのかというように、複雑化しすぎた社会システムにより混乱をきたしているのである。これは、まだ社会システムが狭くローカルなものであったことにより持続してきた社会性が崩壊していることを示しているのである。その為にSimCityという広範な都市システムを学べるシミュレーションを用いて、今まで出来ないと思っていたことを学んだりする事が出来れば参加の段階に入るのである。特に前述した学校教育や大学教育への利用を図ることにより、地域を動かすエンパワーメントを育てることにもなるのである。また、「機会」を与える、「機会」を見つけるようにさせることも重要である。

理論や知識を得る手段として
 次にまちづくり教育が目指す物はまちをとりまく現実的な理論を知ることである。どうしてゴミが増えるのか、どうしたらゴミは減るのかなどある程度推測できることはあるもののそれはあくまでも推論でしかない。それを解決するために理論を与え、還元する必要がある。まちづくり運動の場合多くは問題点があるからこそ実行しようとするケースであるといえる。それは反対運動であったり改善運動であったりと様々であるが、「結果」だけを見て判断せず、なぜそれが起こっているかという「原因」と「プロセス」を学ばなければ例え問題が解決しても同じ事の繰り返しだろう。そのようなことを踏まえてまちづくり教育としてSimCityを考える場合は、生じた問題の「原因」と「プロセス」を都市のシミュレーションをすることにより確認し、その対策案を考え、行うべきなのである。SimCityですべて行えるわけではないが、社会と呼ばれる物全てには必然性がある。それを学ぶことは原因を解明してその対策案を出すだけでなく、そのような事態に直面した場合に創造力を活かせて新たな解決方法を見いだすこともまた可能となり得るのである。これは理論と知識を還元する作業とも言えるのである。

創造力を養う手段として
 SimCityはあくまでもコンピュータ上に創られたモデルを動かしているにすぎないのであるが、このモデルを動かすことによって今まで全体教育では培われなかった、創造力を高めることが可能となるのである。それはこれまで説明してきた通りである。

 まちづくりには「知る」というまちづくり運動が単なる反対運動で終わるのではなく、現状を見つめ将来を見据えて生活する為には必要な段階があり、もうひとつの本当のまちづくりを行うことをさせる教育段階が「創る」段階である。これは将来のビジョンを元に地域全体でその地域の歴史的な流れを踏襲しながらもあるべき未来の姿にたどり着くという作業の段階でもある。前者は知識の獲得だけでも可能ではあるが、獲得したものを方法論を含むプランとしてしか活かせなければ、次の「創る」段階へはたどり着けない。「知る」ことは得た知識や技法を活かすことが出来るが、時代が変化していくことでそれが改良・発展されるのではなく、その知識や技法の生まれるプロセスを学ぶことによって、新しく創造するすなわち「創る」ということが可能になるのではないか。実際の理論を知ることは必要ではあるが、それに留まらないことが将来を見据えたまちづくりが出来るのだろう。
 
 まちづくり教育は地域教育・社会教育という役割を持つだけでなく、伝統や文化を受け継ぎ、未来を形成していく作業を考える物でもある。これはすなわち人間の目指すべき生き方ではないだろうか。SimCityだけでは世界が救えるわけではないが、何かしら与える物があれば将来それが形となって実を結ぶことがあるかもしれない。
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