第四章 まちづくり教育の例



 SimCity自体を教育に利用する、というのが従来のシミュレーションとは異なる点が多いため、あくまでもここではその利用のモデルをあげる。まちづくりは、従来は問題解決を目的としたものが多かったが、現在はそのような問題解決のプロセスから新しい都市のビジョンを確立して、理想とする住環境を作ろうという動きになってきているといって良いだろう。
SimCity利用の体系についてはまだ完成はなされていないが、どの場合においても共通なのは、まずディスカッションを行わせることで各人が持っている物を吐き出させ、シミュレーションの前後に説明、終わりにディスカッションもしくはディベートを可能である限り行うようにするのが望ましい形であるという点である。こうすることによって、あくまでも仮想社会での体験としてではなく、現実社会の一つのモデルとして考えるようになり、それを現実世界に還元しようとする。この点を考慮するのはどのシミュレーション教育でも同じ事と言える。また、実際には体験できない事象を体験することによってシミュレーションを利用して何かを試そうと考えたり、現実とはなぜ違うのかと考えたりするようにもなるだろう。この作業は普段研究活動を行っていない者に対しては有効な教育手段であると言える。
ここにあげられているのはあくまでも代表的に考えられるモデルのみであり、教授者自身の方法によって様々な利用法が考えられる。

第1節 現実理解モデル
 これは発生している問題に対していかに対応するべきかを考慮したモデルであり、問題を解決するというプロセスにおいて付随する複雑な相関関係を知り、その解決を目指す。あくまでも問題点を知り、いかなる解決方法があるのか、という活動が中心になるため、かなり幅の広い物になることもある。これはまちづくりを単なる反対運動で終わらせない為にも実際にその地域では明確には発生していない問題を取り扱うことによって、その問題が起こりうる可能性や起こらないようにするための方法・活動を考える事を助長させる効果もある。


ゴミへの意識化を図る
 これはSimCity 3000 Teacher's Guideにある「TALKING TRASH」を利用したモデルである。御嵩町の産廃や藤前干潟など近年の廃棄物が文字通り生み出す問題は過去の物よりも遙かに大きく、社会的にも非常に高い認識がある。それほどまでに現在のゴミ問題は非常に大きく、従来のように政策的な分野だけの人だけでなく全ての人が考えなければならないとして重要視されてきている。しかし、実際ゴミ問題はどうやって解決するべきか、なぜこのような問題が発生するかなどは考えられることは少ない。少し勉強すればゴミを減らす方法を考えることは可能であるが、それだけでは個人の意見でしかない。その実現する手法を考えたり、行政が行うゴミ対策について真剣に考えたりと今何をすべきかというのを感じてもらうことを目標として行う。これは廃棄物問題だけでなく公益施設の重要性を知る、という意味でも大きな意義がある。

 まず、Teacher's Guideに書かれているシミュレーションを使って廃棄物処理サービスがなければ一体どのような事が起こるか、というシミュレーションを行う。まず、我が国の公衆衛生サービスを改めて実感を込めて再確認させ、そして現状浮かび上がってきた問題点を解決しさらなる向上を求める意味でも是非行うべき必要がある。


@スターター・タウン*の埋立地区の面積を減らす
左図:都市全景
下図:埋立地区の区画を解除し
2×2マスのみ残す
 

A時間を進めさせゲーム時間内の一年経過したときにシミュレーションを止める。
 コンピュータピープルが生活を始め、時には右図のような広い土地を使って建物を着工し始める。周辺を歩く人々も鉄骨を持つなどしている。
 この間、ただ放っておくのではなく、都市の状況はどのように変化するか見させ続けることが重要である。状況によればこの時から徐々にゴミが問題になりつつあることをニュースティッカー*などで確認できる。

B都市全体を見渡し、その後データマップ*を利用してゴミ汚染がどれほどあるかを調べる。また、調査ツール*を使って埋立地の容量がどれぐらいになったか確認する。
 
 都市全体を見渡すと全ての区画が開発されているわけではないが、グラフィック上でもそれほど「汚い」の建物は存在しない。この時に都市の全体のイメージを記憶させるのではなく、シミュレーションを行ったプロセスの中で覚えていくように出来るならばその疑問を埋めようと自分から活動し出すこともありえる。

右図:ゴミの汚染は埋立地以外は見られない
下図:調査ツールを使えば指定したタイルのゴミの総量と使用量が確認できる

 

C埋立地が一杯になった場合のことを想定し、都市にどんな影響を及ぼすか、都市全体の地価はどうなるかを推測させる。

D再度シミュレーションを一年間進める。
 この時のシミュレーションの変化を見逃してはいけない。埋立地区を減らすことで、1年程でゴミが処理能力を上回るようになっているため、町にゴミが溢れかえるようになる(下図)。
 
またこの変化のプロセスはそれだけでなく、ゴミのたまった空き地がその周辺の建物とどう関わって、そしてどう変化するのかを予測させる事を手助けすることになる。
また、この変化は町の表情だけではなく、ニュースティッカーやアドバイザーウィンドウ*などを通して、問題が発生した時の市民や専門家の意見が表示されるようになっている(下図)。自分もこの訴えをしている人と同じである、と気づけばどのようにまちづくりをすればよいか考える手助けになる。
 


E Bと同じ作業をする。
 そうすると右図のゴミ汚染データマップに変化が現れる。Bの段階では埋立地区の場所だけが高汚染(赤色)だったのが、1年進めただけでこのような変化となる。この結果が大事なのではないので、この白くゴミ汚染があると表示された理由は何であるかを考えさせると
 
 左図のような至る所にあるゴミ捨て場が、元は「遊び場」や「空き地」「芝生」だった場所であることに気が付く。これは実際の事象と絡めさせることも可能である。

 SimCityは必ず操作に対する反応をグラフィックで表示する。この埋立地もいうに及ばずゴミの蓄積量によってグラフィックが変化する。そのグラフィックによって、どれほどの状況になっているかを確認することが出来る。すなわちゴミの山がたまり始めた時にはすでに限界が近いことを示しているのだ。プレイヤーはそうやってグラフィックを元に問題を把握することが出来る。
 


F地価の時間的変化を確認するためにグラフツールを使い、地価がどう変化したかを確認する。

 グラフの変動を見ることによってどれぐらい数値が変化したのかというのを知ることが出来る。
これは統計から将来の指標を出し、その対策案を立案させることを可能にさせる。それを繋げていくようにプログラムを考えることも場合によっては必要であると言える。
また他のグラフを確認し、それぞれが果たして関係しあっているかなどを討論し出すこともあるかもしれないので、SimCity内での相関関係と、プログラム実施者側は事前に、埋立地を減らさないでシミュレーションしておくことも必要である。


上の流れを見てもらえば分かるが、SimCityはプレイヤーの行動にしたがって都市の姿を変えるため変化のプロセスを常に見続けさせ、その変化について理解してもらうことが必要である。また、それがあくまでも仮想世界のものではなく現実の世界のモデル化であることを含ませるために実際のゴミ問題についての説明を行うべきである。方法としては様々なものがあるが、例えばEの説明の時に先日発生した東海豪雨でのゴミ処理の事例(下図)をあげることもできるし、廃棄物処理をとりまく立地や取引の問題、容器包装リサイクル法の説明をすることも出来る。また、その説明に続けて政策や立地などハード、ソフトの両面から実際の対策方法を(ある程度の制約はあるものの)行うことも可能である。制度面の利用は次節で紹介する。
 

 まちづくり教育として考える場合、ここでは単なる環境問題としてではなく、いかに都市の理論を用いて解決するかを念頭に置いて行うべきである。その為にシミュレーションを行わせ意識付けをさせ、その問題となっている根幹を探るのを手助けするために実際の事例を紹介し、その実例を踏まえて再度シミュレーションを行わせることでその対策法を考えることもあるだろうし、実際の手法を用いて対策とするかもしれない。あくまでもシミュレーションであるため実地調査などから得た情報を元に行う対策法よりもソフィスティックなものになるかもしれない。しかし、シミュレーションをただの体感学習としてでなく、先に挙げたような方法により実際の問題と直結、そして確認するというようにする教授者側の努力が必要である。そうすれば、学生達はSimCityで出来る範囲のことも考えるだろうし、それ以上のことも考え出すこともあるだろう。どうしても他人事になりがちな迷惑施設の問題はフィールドワークや市民活動、ボランティアなどのように実際にその問題に触れるとともに、実際の問題と関係の背景を知ることによってよりワークショップなどが生きてくることもある。
*スターター・タウン・・・発電所や住宅、水施設など最低限必要なものが最初から配置されている都市データ。都市計画の理論を元に作られているものが多い。操作に慣れる為に用意されている。
*ニュースティッカー・・・SimCity 3000の画面下に常に表示される都市の変化や出来事をプレイヤーに告げるメッセージ。アドバイザーや市民などから出される提案もここで確認することが出来る。シミュレーションの変化に併せて表示されるメッセージもリアルタイムに変化する。
*調査ツール・・・その土地がどれぐらいの地価でどのような人口密度であるのか、汚染のレベルはどの程度であるかなどを確認することが出来るツール。最もミクロな視点で都市を調査する場合に用いる。これもSimCity classicから搭載されている機能。
*データマップ・・・都市全体の地図に交通状況、汚染状況、人口密度、地価などを表示する機能。マクロな視点で都市を調査するのに使う。これもSimCity classicから搭載されている。
*アドバイザーウィンドウ・・・財政局や厚生局など各専門分野のアドバイザーが都市の状態や対策案を提示してくれる機能。これも都市の変化にあわせてリアルタイムに変化するためプレイヤーは攻略本よりも役立つ情報を手に入れることが出来る。
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