[#023]
 アメリカの交通事情(2)
(02/09/26)
 アメリカは日本が憧れた車社会という社会から徐々に変わろうとしている。

 というのもアメリカでは[#022]で述べたように1980年代から自動車による問題に大きく悩まされていたからだ。いや、過去の話ではない。現在も続いている問題だ。増えすぎた車と、車が必要な都市の構造になってしまっているからには、技術が進歩しようと、いくら渋滞をコントロールしようとそう簡単にこの流れを変えることは出来ない。


 そんなアメリカではあるが、手をこまねいているわけではない。自動車という物が一般市民の生活に入り込んだ時点からいくつもの対策を行ってきた。今回はその歴史を見ながらSimCityシリーズの「交通」の変遷を見ていくことにする。

 その前にまず確認しておかなければならないのは鉄道という存在だ。
 鉄道は早くから発達し、自動車が発明される前から実用化されてきた、アメリカの国土を形作った大きな要因となる交通機関である。その高速性・輸送量は当時の馬車などでは太刀打ちが出来なかった。「鉄道大国アメリカ」を形作ったのはこのころである。

 しかし、そんな鉄道も第二次大戦の後、大きな変化を向かえることになる。
 戦時中の(戦争のための)技術発達に伴い、自動車、そして航空機技術が飛躍的進歩を見せ、コストも随分下がってきた。それとは対照的に、鉄道会社は独占体制によるサービスの質の低下が進んでいた。時代はモータリゼーションによる住宅の郊外化が進んでいたというのに、である。
 自動車の普及により市民の移動には自動車が使われることが多くなり、また、自動車を持つというステータスと「どこでもドア」のような自由が人々の夢にもなっていった。そのことにより「鉄道は仕方なく利用している物」として貧困層が職場に行く為の「仕方ない」移動手段とした扱いになっていく。今や全米有数の自動車都市ロサンゼルスも路面電車網が張り巡らされていたなど信じられるだろうか?(現在は復活している)


 さらに鉄道に追い打ちをかけたのは鉄道を支えた輸送のニーズが変化したことがある。

 これは産業構造の変化や生活の変化と関わっているのだが、これまでの鉄道貨物輸送は石炭や木材などの大きかったり重かったりする運びにくい物を加工地(木を木板にしたりする所)や消費地へと運ぶ主要の手段だったのだが、その取引先である第一次産業が第三次産業に取って代わられてしまったのだ。
 これはさらにトラックなどの輸送手段への追い風となった。第三次産業は車を使うのです。材料よりも事務机や電子機器、コンピュータなど軽いけど高価値の物になり、運び先も大企業から個人経営の所までなので、自動車の「ドア・トゥー・ドア※1)」性が有利に生きることになった。それに加えて食生活も「高級」で「新鮮」な物を望む傾向が出てきたので、即時性のある飛行機とのリンクで急激にシェアを伸ばすことに成功する(もっとも、鉄道はある程度貨物に向いている部分もあるので消えるまでには至らないことも)。
 
鉄道衰退の決定打(ちょっと長い上にムズイかも)
【鉄道衰退への悪循環】
 鉄道会社は他輸送機関の台頭により徐々に輸送部門のシェアを削られていくという現実を認識してからというものの、あの手この手でそれを防ごうと試みた。
 時には大企業の力を利用した政治的アプローチにより自動車輸送に不利になるような法律を可決させたりもした。企業的な対策として、(鉄鉱や石炭などの大手の取引が出来る)お得意様を取られないようにと「特殊車両」を導入したりもしたが、結果的にはこれがアダとなる。
 特殊車両はその業種専用に設計してあるので非常に便利な物(線路に載ったまま積載物をすぐ降ろせる「ろうと」の着いた車両とか)なのだが、問題はこういう用途は片道しか荷物が載っていない所にある。列車は往復しなければならない物だが、帰ってくるときは何も載っていないというということで、投資の割に設備・保守・管理費が高くつく。
 「取引のための取引」によってそちらに回された予算の分は一般貨物車両にツケが来て、特殊車両以外の車両は新しくならず、線路補修も思うようにできず・・・といった感じで「貨物の紛失・損傷」や線路の能力を超えた特殊車両(長い)の「脱線事故」などの事故が頻繁に発生した。それによって鉄道の信頼を落とす結果となり、ますますシェアを小さくすることになった。悪循環である。
【移動する倉庫、トラックの有利さ】
 また、上述の説明では省いたが、産業における生産工程が複雑になってきた事も挙げられる。例えば輸送費より保管費が物流コストの中で大きなウェイトを占めるようになったとか、だ。現在の日本でも同じような問題があるが、消費社会に対応する形で次々と作り出される商品を市場に出すまでの間に一時的に「浮いた(プール)」状態になる商品がかなり多くなったきた。とはいっても、土地はどんどん高くなる一方なので倉庫に使うワケにはいかない(元が取れない)ので、郊外や、すがに職場や住居に出来ない空港などがその適地になり、移動できる倉庫=トラックもその役割を担うことになる。
 コンビニなんてそんな時代に対応したいい例だろう。「ジャスト・イン・タイム※2)」方式により、データ通信によって必要な量の商品がトラックに積まれてお店に運ばれる。その間に郊外の倉庫へ商品が補充される・・・そんな繰り返しだ。移動している間は保管費がいらないと言うことで、トラックが夜中に路上駐車して時間を過ごす、なんてことも珍しくない(コンビニへ行くやつではないが)。


 そうして車社会へとまっしぐらのアメリカではあったが[#022]で述べたように車社会の歪み(ひずみ)が大きくなって来てしまっているのが現状となるわけだ。


 そんな流れの中でアメリカ連邦政府が行ってきた法律的対処(特に補助金)をまとめてみよう。
 
動き 関連出来事
1961 住宅都市開発法から公共交通に連邦が資金提供始める











1973年
石油危機





1980年代
インタース
テートハイ
ウェイ網順
次完成

1990年
アメリカ障
害者法・改
正大気汚
染法成立




路面電車な
どの公共交
通整備進む
1962 「ケネディ運輸教書」で連邦が責任を持つのは
 ・都市間交通(競争の原理を計る)
 ・都市交通(公共交通優先、補助)  とされる
1964 都市大量公共輸送法成立、都市大量公共輸送局設立
 公共交通整備に2/3の資本補助が出る
 (以降改正を繰り返す)民営から公営が増える
1970 1970年鉄道旅客輸送法成立
1971 全米旅客鉄道公社(通称:アムトラック※3))営業開始
1973 資本補助80%に引き上げ+道路整備プログラムの資金から
一部転用可能に
1974 運営補助費(補助率50%)もサポート
1976 1973年鉄道再編成法に基づき統合鉄道会社(通称:コンレー
※4))営業開始
1978 都市大量公共輸送法+連邦援助道路法
 ⇒陸上交通援助法(STAA)成立
1982 STAAにて連邦のガソリン税の値上げ分5セント中の1セント
を公共交通への補助金に充て(資本補助は75%に)、資本
補助は、道路信託基金の中に公共交通勘定が設けられた

⇒道路財源の一部が公共交通の整備に
年間40億ドル(歳出ベース、資本費、運営費含む)の補助
 (+州や地方政府の補助もあるのでもっと増える)
1991 6年間の時限立法※5)総合陸上交通効率法(ISTEA)成立
 ・道路の維持管理資金と公共交通整備資金を双方流用
  ⇒6年で総額1500億ドル(公共交通には315億ドル)
 ・地域主体の交通政策で、都市圏計画機構(MPO)による
  土地利用と整合する地域的計画と資源配分
 ・大気質改善の為の交通計画
 ・交通土地利用への影響を重視し、広範な市民参加の機会
  を提供するパブリックインボルブメントの義務づけ
 ・(関係ないが)アイスティーと発音
⇒ISTEAにより総合的交通計画を行うようになる
1997 ISTEA期限切れ
1998 21世紀交通政策修正法(TEA-21)成立
 ・ISTEAを引き継ぐ、同じく6年の時限立法
 ・6年で総額2170億ドル(公共交通には413億ドル)
⇒独立採算の原則から脱却
  (運賃収入は運営財源の10〜20%台が一般的)
 
 補助金が多いのは、連邦政府自体、日本における国家とはまた別の存在なので出来ることがそのぐらいだからである(義務と助成)。

 この流れを見ていただいてわかるように1960年代からアメリカが車偏重社会から脱却するべく対処を行っていることがわかるだろう。特に1991年に登場した時限立法のISTEA(アイスティー)によって、都市の交通自体を総合的に考えるようになってきた所が画期的な変化である。もちろん、このISTEAは決して順調に進んでいるというわけではないのだが、時限立法としての期限が切れた後にそれを引き継ぐ後にTEA-21が出来たことからもその必要性は皆が痛感しているのだろう。

 法律の流れ以外にも車社会への対応策として車の交通量のコントロールをする交通需要マネジメント(TDM)は当然行ってきたが、やはり車だけの社会では限界が来たのだ。車は個人個人に自由と快適を提供したが、それも増えすぎれば・・・ということである。ちなみにアメリカのTDMは「相乗り」などによる交通発生量の抑制が代表的だ。

 決して車を否定して鉄道を復活させるのではなく、それぞれが最大の機能を発揮し、社会的影響を限りなく少なくするという一見当たり前の理想の実現に向けて少しずつ歩き出したとも言える(そうなると基本的に「出来る限り」公共交通機関を使う町にしようとするんだけどね)。ヨーロッパでは自動車を閉め出して、LRT※6)という新型の路面電車をそこに走らせるといったような街区整備も行われている。日本もやろうと挑戦してみるが、どうも理想だけ先走っているような・・・。
 表内で「公共交通機関の独立採算から脱却している」と書かれているが、それは「鉄道だけで採算取ろうと考えてもムリ」という結論に至ったのである。それを可能にするのは鉄道を食いつぶそうとする道路・車からの財源である。鉄道マニア以外の人は出来る限り車を利用したいので、それを迎え撃つ魅力が鉄道に持たせることは、特にアメリカでは難しい(日本は地形上開発できる場所が限られているので鉄道が比較的頑張れているのである)。なぜなら鉄道は前述したように「仕方なく利用している」交通機関と思われているからだ。その為にも公共交通機関が利用しやすい環境を整えることは大事なことと言える。


 都市、地域レベルで土地利用も考慮した総合的な交通計画・・・これが現在のアメリカの交通事情といっても差し支えなくなってきている。そしてそれはSimCityそのものと言えるだろう。
 ・・・その割にはSimCityの鉄道はショボイよなぁ・・・

※1)ドア・トゥー・ドア・・・入口から出口まで輸送機関が連れて行くことが出来ること。どこでもドアがいい例。便利さの象徴だが・・・。
※2)ジャスト・イン・タイム・・・必要なものを必要なときに必要なだけ生産・配送するシステム。在庫を置かない流れ作業。コンビニにおいては店舗での売り上げと在庫管理データにより必要数を決めて、オンラインで受注し、発送量が決められるといった感じ。元々はトヨタ自動車が始めた「カンバン方式」で、アメリカでは略してJITということもある。
※3)アムトラック・・・全米旅客鉄道公社(National Railroad Passenger Corporation)の通称。「American travel by track」を略してAmtrak。全米をまたぐ唯一の旅客鉄道会社(第三セクター)。元々は多くの旅客鉄道会社を統合したもので、大陸横断鉄道など長距離列車を運行する。他の鉄道会社の線路を利用させてもらったりするので遅れることが多い。脱線も多い。だが、乗り心地は快適である(体験談)。
※4コンレール・・・統合鉄道公社(Consolidated Rail Corporation)の通称。放置すれば消滅する可能性のあった東北部の貨物鉄道会社を統合してできたもの。黒字経営に持っていくことができたのだが、ノーフォーク・サザン鉄道とCSX鉄道に吸収・分割された。
※5)時限立法・・・有効期限を決めた法律。予算などを集中的に利用することが出来る。限時法。
※6)LRT・・・Light Rail Transitの略、アメリカではライトレールと言う。路面電車なのだが、低床で、窓が大きく、デザインも先進的な物で、自動車とは別の専用軌道を持つものをいう(路面電車は自動車と共有)。その為LRTと歩行者道路を組み合わせたトランジットモール(合成語、英語では歩行者街路という)も多い。歩く視線で街並みを眺める観光利用や、通勤に利用される。郊外になるとスピードを上げる物もある。日本でも導入しようかという「意識は」たくさんある。

参考文献:「クルマ社会アメリカの模索(ここで同じような内容が確認できます)」、「都市計画概論」、「都市の交通を考える」、「交通まちづくりの時代」、「まちづくりのための交通戦略」、「アメリカの鉄道政策」、「岡並木教授の右脳フォーラム」、「アメリカ鉄道論」
参考Webサイト:日本の鉄道貨物輸送
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