[#030]
 警察−自治体警察(2)−
(03/03/18)
 アメリカの自治体警察制度は1800年代からある。自治体警察(市警察)の特徴として、
  • 州の中央統制を受けない(一部の都市を除く)。州の中央統制を受けない都市は市憲章により、警察部に関する明確な規定があるので独特になる
  • 警察部は、市長・支配人・公安委員会の下にある
  • 州の憲法・一般法によって定められた市固有の権限のひとつ(都市が警察行政に対する義務・責任を持つ)
  • 合衆国憲法、州憲法・法、市憲章・条例などを擁護する義務を持つ
  • (公共の平和・健康・道徳・福祉を擁護・促進するため)州の委託した権限を行使する
 と言うのが上げられるが、どれもSimCityでは再現されていると言えそうだが、まずはその点を一つずつ整理しよう。

[州の中央統制を受けない〜]
 中央統制というのはいわゆるトップダウン式であり(その方がわかりにくいが)、上の組織の管理下に置かれてその組織の言うなりとまではいかないが、その組織の意向によってコントロールされる体制。日本で言えば、警察庁の下に各都道府県警察があり、警察庁の意向に逆らうことが出来る、という体制(もちろん、そんなこと日本では出来ないと言う意味だが)。
 これはSimCityで警察署をどこに置くだの、どこに警官を派遣するだのいった時に、ユーザー以外の意志(ようするにコンピューター)に従わなくても自由にすることが出来ると言った権限がそれに該当すると思われる。


[警察部は、市長・支配人・公安委員会の下にある]
 市長・支配人・公安委員会というのは、[#010]で説明したような都市の自治体運営体制のトップのことで、警察部というのがいくつかある部局の中の一つの部門であり、これは市長等の直接の管理下に置かれるということを表している。
 SimCityでは市長役に相当するプレイヤーが警察署の配置や警官の派遣を指示出来るところからも、これが完全に該当する。日本では、各警察署は都道府県の管理下にあるので、市長の言う通りすんなり動くとは限らない。


[州の憲法・一般法によって定められた市固有の権限のひとつ]
 「都市が警察行政に対する義務・責任を持つ」という説明書きの通り、SimCityでは市長であるプレイヤーが警察行政に関しての責任を負うことになる。警察の失態は警察局のトップだけで済ませられる問題ではない、ということで、市長等は自治体警察の最高指導者でもあり、最高責任者でもあるわけだ。だから警察の派遣(日本では要請になる)が市長の評価を決めるのだ。この点が、警察がほとんど地方自治体と密になっていない日本とずいぶん異なる。
 州の憲法等は存在しないが、ゲーム上での「警察署を配置することが出来る」「警察隊を派遣することが出来る」「市条例を守らせている(バックグラウンドで遂行)」という市長であるユーザーに与えられている機能がそれに相当すると思われる。


[合衆国憲法、州憲法・法、市憲章・条例などを擁護する義務を持つ]
 連合国家の体制を取るとはいえ、一つの国家である以上守るべき物が合衆国憲法。州憲法・州法も同じような物だが、特に州法(保安・交通・産業・風俗衛生)に従うところが大きい(ようするに地域の一般ルール的な物をまず遵守するということ)。
 市条例の執行により都市の公安を維持することが重要とされる。この市条例というのはSimCityでもあるのでお馴染みだが、それを守らせるのに警察が一役買うわけである。例えば、交通取り締まり、敷地面積・建物の最小限の高さの取り締まり、酒場取り締まり、広告板の取り締まり、ミルク検査、映画の検閲、宗教の自由の確保、言論の自由の確保、etc.のような仕事がある。・・・・ホントに出来てるのかよ、とツッコミを受けそうですが、一応そうなっていると言うことはご理解下さい。
 先程挙げたような「取り締まり」をSimCity内部で一々行っているとは思えませんが、SimCity内で都市条例を実施することによって、警察もその条例を守らせるため日夜働いていることがわかります。逆に言ってしまうと、警察の介入しない条例も効果が期待できないということでもあります。日本の「まちづくり条例※1」などの地方自治政策はどこまで出来るかまだまだ問題点も多いようです。


[(公共の平和等を擁護・促進するため)州の委託した権限を行使する]
 ごく当たり前のことですが、国の管理下に置かれない自治体警察が地域のボスと癒着し(市民を無視して)利権に走らず、州の法律(ルール)で規定されている公共の平和などを守る役目を果たすために警察権限を行使するということ。SimCityに限らず警察の基本原則でもあるが、あくまでも「州から委託されている」に過ぎないので、州憲法・州法にさからうようなことがあればそれは問題だ、と言うこと。残念ながら「警察」は正義の旗の元において市民を苦しめる、といったことがよくあったようだ。現在では州警察がその監視をする役目みたいになっているという話だ。
 SimCityでは昔のアメリカの自治体警察に良くあった、地域のボス(犯罪シンジケートとか大企業)との癒着というのが出来ないようになっているとか、他にも意図的に犯罪をでっち上げ搾取するといったことが出来ない、などと言うことがそれを再現している証拠だ。


 以上の点から整理してみても、SimCity内の警察制度が、アメリカの自治体警察制度に基づいた物であると証明できる。

 なお、前回説明した中に登場した州警察や郡警察についてだが、州警察は、先程説明した点以外にもなにかしらゲームシステムに影響を与えているとは思うものの、そんなこと言い出したら政治システムとかなんとかまで問い直さないといけないので、単に市警察の及ばない広域捜査などを担当しているからSimCityには関係ないとしておこう。
 ちなみにモータリゼーションによる犯罪の広域化などがあるので、州警察がもっと力を持つべきだとされるけれど、アメリカの掲げる「地方自治の精神」により、地方自治に深いかかわりを持つ自治体警察は今もなお存続し続けている。郡警察の方は自治体である「市・町」とは異なる行政機構を持つ組織なので([#009]を参照のこと)自治体警察とは異なる



 先程あげた点の中で市民の権利を守るようなことを言っている割には、市長であるプレイヤーがブルドーザーで家やビルを簡単に潰せるじゃないか、と疑問をもった人がいるかもしれない。たしかに、自治体警察には合衆国憲法や州憲法などによって保護される市民の「住む」権利を脅かす権限はないように思えるが、それを(公共性の為に)実際に行える権力、「ポリスパワー」と言う物がアメリカの都市行政には存在する。このポリスパワーというものは、アメリカの都市行政において重要な物である。

 ポリスパワーをそのまま日本語にすると、「警察力」になるように思えるが、このポリスパワーのポリスは「都市国家(ポリス)」※2としての意味を持つ旧来の「ポリス」であり、これは警察と言う意味の英語、ポリスの語源だ。逆に言うと、ポリスの存続のための組織がポリス(すなわち警察)であると言って良い(だから正確に言ってしまえば、日本の「警察」とアメリカの「ポリス」は似て非なるものとも言えるが、この国際化の時代においてはある程度の共通点があると言う部分は当然ある。それが保安だ)。


 ポリスパワーとはいったい何なのかというのは[#012]で簡単に説明したが、基本的には「都市国家」の中の平和・秩序・公共の福祉などの「公益(市民の共同生活)」を維持するための強権力のことで、議会などを通じて行われる条令や法律による規制権がそれに相当する。そこでそのポリスパワー実施のために、警察(ポリス)、消防などがいるわけだ(ややこしくてスミマセン)。

 どれぐらいの強権力かというと、公共の利益のために土地利用に関する私権を保証することなしに制限できるというような、SimCityで「ここは公園にしたいから住宅つぶすぞ」ということが本当に出来る権力である(市民の権利を議会に譲渡し、サービスを受ける関係なので)。日本では信じられない行政の権限(強い土地収用権)だが、日本とアメリカとでは「土地」そのものに対する考え方が異なるからと言える。とはいえアメリカは訴訟社会なので、そのようなことで起こる論争を繰り返してきたことは言うまでもない。
 このポリスパワーは、土地利用に関して言うならば標準州ゾーニング授権法にてその権利を自治体に与えている。

 日本ではその自治体独自の規制権があまりにも弱いから地方自治が進まないのだ、と言う声もあるが、強制力を持つ警察制度や土地所有権や市民権自体の考え方もアメリカとは違うので一概にそうだとも言えない。でもまぁ、自治体がその強権力を持っていた方が色々と便利なのである。


 また、[#029]で少し触れた予算の件であるが、アメリカでは自治体が自治体警察の予算を組んでいますが、日本では都道府県警察は都道府県と警察庁の予算の両方を使っています。また、この警察の予算を都道府県が負担すると言うことに関して、警察という組織の性格上、予算もずいぶん秘密裏な事が多く、財政をかなり圧迫している警察予算を知事が減らそうとしたりして警察組織と対立するという矛盾が生じていたりします。
 それで地方自治が出来るのかというツッコミもあるかと思いますが、現在の所そうなっている。だから自治体警察とはあまり言えない、ですよね。当たり前のように思っていた警察制度も、違う国と比較してみるとおかしな所がある物です。
 
日本にもあった自治体警察
 あまり知らない方もおられるかもしれませんが、日本にはかつて横浜市警、神戸市警、などの自治体警察が存在しました。戦後まもなくの話です。

 1948年占領国軍GHQは、日本の民主化を進めるために秘密警察である「特高警察」の解体を主な目的として戦前の中央集権的警察制度の刷新を図る。しかし、GHQ内部では「アメリカ流で、さらに理想的な民主化・地方分権化を目指す為に県や群、地方自治体へ警察を分散するべし」とする民生局(GS)と、「戦後の治安情勢を考え、国内安定維持を目的とした中央集権的警察組織を構築」とする参謀第二部(G2)との間での対立がおき、結局は双方の妥協と融合により「国家警察(国警)」と「自治体警察(自警)」の二本立ての警察機構を作り、自治体警察法(旧警察法)を施行する。

 この法律による自治体警察の特徴は
  • 国警が自警の運営に関与できない
  • 地方自治体の長にその権限執行に必要な警察力を与える
  • 市町村公安委員会は市町村長が議会の同意を得て任免
  • 国家非常事態には首相によって全警察の統制下に入る
  • 東京特別区は連合して特別区公安委員会が管理する警視庁を持つ(これが警視庁のルーツ)
 というように(今にはない)「地方自治」を支える仕組みを持っていた・・・・・過去形です。というのも、以下の要因(条件)により大きな災いを呼んだ
  • 市及び人口5000人以上の(市街地を持つ)町村が自治体警察機構を運営しなければならない
  • 国及び市町村が費用を共同負担するハズが、警察法施行3ヶ月で市町村全額負担に変わる
 これにより、財政基盤の弱い多くの自治体が自警を返上しようとする。元々、小さな街が多く、戦後と言うこともあり基本的に財政的余裕はない為、警察機構を維持するための警察予算を下げるしかなく、また、6000,7000人程度の小さな街には警察官が6,7人、というような非効率な配置(いつもはそんなにいらないが、緊急時にはとても足りない)もよくあった。これにより警察の能力が極端に低下し、予算が下がったために十分な教育を得られない警察官も増え市民から疎まれる存在となる。
 もちろん、予算がないからと言うのも大きな要因だが、結果的にこれにより「もっと広範で効率的な警察」が望まれるようになり、今のような都道府県警察のベースが生まれることになった。

 この流れにより、国は(狙いすましたように)住民が自警を廃止できる「住民投票」を出来るように警察法を改正。各地で(住民手動ではない)住民投票が行われ、1605あった自警の中で、1314の自治体で住民投票を行い1024が廃止の決定を受ける。最後まで反対したのは、財政負担力もあり、地方自治のために自警が必要だと感じていた大阪や名古屋などの大都市だった。この住民投票は住民の関心も薄く、投票率が低かったのも問題と言われている。

 普通に考えれば、国も負担する、と言うことで始めた自警をたった3年で市町村全額負担にするということは事実上の兵糧責めだ。というのも、元々国はこれまでの日本の流れにはない「アメリカ的・地方自治的」警察の導入には乗り気でなかった。帝国主義で育ってきたのだからそう感じても不思議ではない。お目付のGHQによる自治体警察法を施行した後で、兵糧責めの後、「自治体の反対」「住民の反対」を理由に全国の自警を廃止したわけだ。


 今では信じられないことに地方自治推進の条項が消えたのだ。ここに中央集権的警察が復活することになる。警察に政治的中立を守らせるための管理をする公安委員会が建て前化し、都道府県公安委員会にも警察管理の権限がない。

 これでは都道府県の言うことを聞かない警察がいても不思議ではないですよね。


 ちなみに日本の警察制度の大元は明治時代、中央集権的色合いの強いフランスから取り入れたものであり、アメリカの警察制度は地方自治的色合いの強いイギリスから取り入れたものだ。だから両者が違って当然と言えば当然なのだが、それがさらに戦後の自治体警察制のゴタゴタにより日本での警察制度が中途半端になった、という説もある。別に日本が中央集権国家であるという確たる理由はないのだけどね。

 それでも世界に誇る「KOBAN(交番)」システムを作ったりして、日夜犯罪抑止に頑張っているのが日本の警察である。中途半端な警察制度だからこそ、それを補おうとやってきたのかもしれないですね。
 


※1まちづくり条例・・・その街にはその街にあったルールが必要だろう、として近年増えてきている都市条例。自治体と警察が異なる機関になるため強制力がアメリカより弱いので、都市条例とはやや異なる。
※2ポリス・・・ギリシャ時代の都市国家のこと。このころは、都市が国そのものだった。

参考文献:「岩波講座自治体の構想2−制度−」、「シムシティ3000公式戦略ガイド」、「ゾーニングとマスタープラン」、「合衆国警察制度」、「近代日本の警察と地域社会」、「現代の都市法−ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ−」、「日本の警察」、「日本の警察 FOR BIGGINERS」、「破綻と再生 −自治体財政をどうするか−」、「米国の地方財政」
参考Webサイト:
 愛知県警察
 警察庁
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