[#032]
 SimCityと水利用(2)
(03/04/10)
 [#031]の続きで、SimCityの水について、アメリカの水利用も絡めながら説明する。


[水の流れ]
 SimCityに水の流れの概念はないが、これは水利用において重要なポイントでもある。水の流れというのは主に川の流れのことであり、川の流れは人に災害(洪水)をもたらすほか、(現代ではほとんど無視されるが)肥沃な土を運んだり、水の清浄化という機能が含まれる。特に洪水という点に関して言えば人は常に悩まされている。「川を治めるは国を治めるがごとし」とはまさにこのことを証明しているかのようだ。
 そんな川の流れだが、皆さんもご存じのように日本のように急流ばかりではないのがアメリカだ。
日本と大陸河川の縦断面曲線
「河川工学」 鮎川登 著(鹿島出版会)より

 これはまぁ端的な例ではあるが(アメリカのは2本しかないし)、島国である日本には必然的に川が急流になるのである(ちなみにこの図はお役所などでよく使われるが、フランスの川が多いのが参考になるのか不明)。アメリカの川が緩やかだからと言って洪水がないわけではもちろんなく、1993年のミシシッピ川の大洪水をはじめとして多くの洪水が発生している。
 また、川に流れがあるということで生じる水質の維持、土砂の移動、汚染の移動、洪水という災害、という各概念もSimCityでは再現されてはいない(洪水はSimCity2000のみ存在したが、流れとは関係がない)。



水道管を引かなくても発展する農場は
農場独自で取水している結果だ
[地下水]
 川や湖が近くにないところでは主に、水道管を引っ張ってくるより地下水の利用をはかるのが比較的コストもかからないのでよく実施される。とはいえ、地下水は水循環体型の中にあるわけではなく、長い年月をかけて帯水層にため込まれた物なので、際限なく取水できるわけではなく、枯渇の危険性が常につきまとい、歴史上数何度も地下水脈を掘り出すのに躍起になった。アメリカの農家では風力やディーゼル機関のポンプを使い、独自で取水するということもある。SimCity 3000やSimCity 4の農場がそれを体現しているが、風力ポンプでこれだけの面積を補えるかというとちょっと疑問が・・・まぁそれはお約束と言うことで。
 SimCity 2000以降でも「貯水塔」という施設により地下水の取得が出来るが、これはたとえ300年経っても際限なく取水することが出来てしまう(もちろん貯水塔が先に壊れるのだが、同じ所に作ろうと取水可能)。これにより水というものが有限の資源であるという要素を排除しているということがわかる。
 有限ではないとした意欲作としてSimTownがあげられるが、これは別の機会で紹介することになるだろう。



アメリカ(アラスカ除く)の年間降水量
[雨]
 水循環システムに置いて、ある意味もっとも重要な物である雨だが、アメリカでも雨はもちろん降る。アメリカの気候区は様々であり、東部の降水量は日本と大体同じだが、西部は半砂漠地帯なので降雨は日本より少ない地区が多いのが特徴的である(右図)。そのためか西部では雨水をためる超巨大ダムへの依存度が高いようでもある。
 SimCity 2000だけには天候の要素があり、太陽発電などに影響を与えるばかりではなく、水の供給にも影響を及ぼす。雨の降らない乾期になると、ポンプ場などの水供給能力が落ち、水を貯めていた貯水塔が機能する。市民から「水が足りない」というクレームが来るようになる(水の水位が下がったりすることはない)。この対策として水供給設備の増加という方法をとるわけだが、これはまさに過剰とも言える水資源開発(公共事業)そのものである。
 SimCity 3000以降はこの要素はなくなるが、シンプル化のためになくなったのか?雨水利用に関してはまったくと言っていいほどSimCityでは登場しない。当たり前化しているのか、条例でやることでもないのだろうかは不明である。


[浄水設備]
 浄水はSimCityには存在しない仕組みだが、人が飲用水とする上水道の設備としては欠かせない存在である。なぜSimCityに存在しないのかがわからないが、普通に考えれば浄水設備である濾過施設が必要だが、簡略化されている。とにかくポンプ場や貯水塔さえあれば(たぶん)飲用水が供給されるシンプルな作りになっている。
 アメリカの浄水場は急速ろ過が主流だったらしく、日本は戦後、アメリカに習って緩速ろ過方式から急速ろ過方式への転換が進んだらしいが、現代は安全でおいしい水が供給できるローテクの緩速ろ過方式への回帰をはかる動きがあるようだ(塩素消毒と汚染物質による化学反応により発ガン性物質トリハロメタンが発生したのが大きな理由)。ちなみに日本で「おいしい」水道水を供給しているところは大体緩速ろ過方式を採用していたりする。
 余談だが、アメリカ等の水道には虫歯予防に歯ミガキ粉でおなじみの「フッ素」を混入して供給しているそうだ。


SimCity
2000
SimCity
3000
[水道管]
 水道管は普通、最低でも上水道と下水道でわける必要があるが、SimCityではそれは行われていない。もちろん、簡略化の意味もあるのだろうが、一本の配水管のイメージで二本通しているか、一本の配水管の中でわかれているなどと考えれば特に問題もないと言うことにしておくべきだろう。SimCity 2000では建物の下に同じような水道管のグラフィックがあり、それに水道管を接続したのだが、SimCity 3000以降は建物の水道管が近くの水道管から自動的に取水するように、というシンプルな構造になっている。
 アメリカ独自の情報は見つかりませんでしたが、日本とそう変わるわけでもないだろう。
 

[工業用水・農業用水]
 アメリカの事情がどうなっているかはわからないが、SimCityでは他の水道とまったく同じ水道管を使用する。


[運営主体]
 アメリカの水道は小規模の水道は民間経営が多いらしいが基本的には公営である。SimCityでも市長であるユーザーが(お金をかけて)建てるのだから公営であると言えよう。1997年以降民間参入が増えてきているらしいが、SimCityはその流れにはまったく乗っていないようである。


[親水]
 親水とは、字のごとく水に親しむことによって生じる人間にとって心理的なプラスの効果であり、水とつきあうことを前提とした整備につながっている。例としてあげるならば、川岸をコンクリート護岸で隔離せず、人が川と接することができるようにしたりというように積極的に水に触れて水を利用しようというもの。SimCityでは水辺の近くは地価があがったりするが、それは親水の一辺だろうがどちらかというと土地利用的なものであって、人がふれあうものとして水が存在しているわけではないようである。



 以上から見たように、SimCityの「水」には「供給」「汚染」「水辺」という簡単な仕組みであると同時に、水循環どころか水文学的な意味合いをまったく持たない物でないことがわかる。これは、これまでアメリカでも思われてきた都市学的な要素の一つとして「水」を取り扱っていることがわかる。これは都市学がベースになっているシミュレーションの宿命なのかもしれないが、これからの時代の物事の考え方に適応は残念ながら出来ていないといえる(他の物のどれが出来ているのかは知らないが)。



※ミシシッピ川の大洪水・・・1993年の夏の長雨により発生した記録的洪水。1,600km、41,000km2の氾濫面積にわたり記録的な水位となったミシシッピ川の洪水。被災家屋84,000戸、被害総額1兆5千億円以上。

参考文献:「アメリカはなぜダム開発をやめたのか」「河川と人間」「川と開発を考える−ダム建設の時代は終わったか−」「洪水とアメリカ−ミシシッピ川の氾濫源管理 1993年ミシシッピ川大洪水を考える−」「砂漠のキャデラック−アメリカの水資源開発−」「ダムと日本」「ダムはムダ」「沈黙の川−ダムと人権・環境問題−」「都市に水辺をつくる−環境資源としての水辺計画−
 
[戻る]