[#037]
 原子力発電所
(03/11/18)

 原子力発電所ほどインパクトの強い施設は世界中探してもそう見あたる物ではない。

 原子力は研究者の「平和的利用」という可能性を与えられたことにより、原子爆弾から原子力発電所という施設が現実化した。
 原子力の可能性が大いにあると期待されていた20世紀中期には、飛行機や自動車、「アトム」に代表されるロボットなどにも原子力が使われるようになるかもと信じられていたわけだが、現在、そういうものが登場するどころか「そんなこと考えられない」という物にすらなった。それは「核」の恐ろしさによる物だ。


 SimCityでも原子力発電所はSimCity classic時代から登場し、プレイしたことのある方ならわかるだろうが、ある意味SimCityの中で一番大きな選択を迫られるのがこの原子力発電所だ。ゲーム内でも原発はメルトダウンするという危険性を持つだけではなく(SimCityは現実よりメルトダウンの起こる確率は高いけどね)、地価を下げたり、強力なNIMBY([#018]参照)を持っていたりするSimCity内最大級の迷惑施設でもある。


 そんなものをどうしてわざわざ街の中に置かなければわからないような物だが、人々は「省コスト」「大エネルギー」「環境負荷低い」という機能が欲しいが為に、どうしても原発を選択せざるを得ない状況に追い込まれる。人々が「仕方なく」原発を建てているのは、資金が豊富だからクリーンエネルギーに転換するときとか、それよりもはるかに発電効率(費用を発電量で割った数値)がよい核融合発電所が建設できるようになったらすぐ廃棄する行動からも見て取れるが、SimCityにおいて顕著なのは「災害なし」の設定にしてプレーするという行動が、原発は人々が仕方なく使っている物、として扱っているのがよくわかる。

 現実問題として、原発が「省コスト」で「大エネルギー」を提供してくれる施設ではなかった上、そもそも存在自体が環境負荷が高いなど様々な問題が表面化してきているのであるが、それは[#038]で検証することにする。



 原子力発電という物はなにやら凄い技術であるようにも思うが、火力発電と同様に、核分裂反応によって生じた熱により水を蒸気に変えてタービンを回して発電機を動かすと言うものであり、エネルギー発生装置以外は火力とものすごく変わるという代物ではない。
 熱エネルギーを機械エネルギーに変え、そこから電気エネルギーにするため、火力発電と共にものすごいエネルギーを生じる施設ではあるが、資源の有効活用という観点から見るとかなり「高価な」代物であるとも言える(もちろん、熱エネルギーから電気エネルギーにするときにロスが生じないことなどあり得ないから、そこはちょっとタブー視されている感があるが)。

  一口に原子力発電所と言ってもその種類は様々だが、主流としては、「沸騰型軽水炉(BWR)」と「加圧型軽水炉(PWR)」の二種類が一般的である。日本では、東北・東京・北陸・中部電力がBWRを、北海道・関西・四国・九州電力がPWR方式を採用している。世界でもこのタイプが主流で、アメリカも同じようにこれらを採用しており、原子炉数で言えばBWR:PWRは35:69、施設数で言えば25:43(※1)とPWR方式の原発が二倍近い数となっている。とはいえ、SimCityの原発を見てどちらか判断することは私にはムリなのであくまでも補足と言うことにしておく。
 ただ、「軽水炉」の名がつくように、減速材・冷却材に「軽水(普通の水)」を使うことから、他のタイプ(あまりないが)のものよりは水を結構必要とする・・・SimCity2000以外の発電所は水を必要としないけど。


 そんな簡単な説明でいいのかわからないが、とにかくSimCityの原子力発電所の歴史を見てみよう。
 
グラフィック 建設可能時期 発電能力 建設費用 寿命
SimCity classic 1900年
(開始時)
150地区 $5,000 なし
SimCity 2000 1955年 500MW/日
(1515タイル)
$15,000 50年
SimCity 3000 1960年 16,000MW/月

効率低下がある
§20,000 60年

ただし
48年で
効率低下
SimCity 4
画像提供:kimikoさん
人口85,000
需要量25,000
を満たす時
16,000MW/月 §40,000

維持費
§3,000
も必要
不明

 これらの情報から、本当の原子力発電所と比較しながら考えてみよう。


[グラフィック]

実際はマークついてない
 SimCityの原発は蒸気となった水を冷却するための原発の象徴でもある冷却塔(クーリングタワー、右図)があるのが特徴的(当然の事ながらこれは原子炉ではない)。これは内陸部に建設する時に使われる事が多い施設であるため、原発が海岸に立地される日本では、水を直接海から取り入れて使用し、使用後は海に流している方法を採るため使っていない。この方法は原発の威圧感の象徴である冷却塔がないのが特徴だが、そのまま温排水を海へ流しても良いのか、と言う問題もある。
 この冷却塔には、海岸や川沿いじゃなくても原発が建設できるというメリットがあるが、余分なものを建設しなくてはいけなくなるからコスト的に高くなるし、夏場は冷却効率が悪くなるので発電量も減少させなければならない(だから日本では造らないようだ)。

 どちらにしろ、原発に水が必要な割にはSimCityでは水がなくても動く、と言う点は少し問題だ。ゲーム内で時々出る煙は水蒸気である(SFC版は赤く光っていた気もするが、そういうことは・・・あるのか?)。

 ちなみに、アメリカで原発を建設する時は、将来のことを考えて大体3〜4基分のスペースを確保するそうだ。また、これは他の発電所にも言えることだが、建設面積も16エーカー(タイル)と言うことはなく、もっと広いスペースが必要となる。


[開発可能時期]
 原子炉の歴史としては1942年、原爆開発の一環でシカゴ大学につくられた原子炉(CP-1)が最初だが、原子力発電の歴史は、1950年代から始まったものだ。アメリカの場合、1951年アルゴンヌ国立研究所の高速増殖実験炉(EBR-1)が初の実験炉として登場。1957年にはシッピングポート発電所でPWR(写真はこちら)、1960年にはドレスデン発電所でBWRが営業運転を開始した。
 ちなみに一番最初に商用運転をした原発は、イギリスのコールダーホール原子力発電所で、1956年だった。

 このことから考えてみるに、sc2kの1955年とか、sc3kの1690年だかに原子力発電所の建設が可能になるという設定はそうおかしなものではないといえよう。SimCity classicは時代変化による建設出来るものが変化するシステムがないので1900年からの開発ということは仕方ないとして、ではSimCity 4のこの条件というものは一体どこから来ているのだろうか?・・・・ちょっと不明だ。シッピングポートがそれぐらいの人口がいたとか?いやいや、シッピングポートは今でも200強しかいないようなところだぞ??これは推測に過ぎないけど、おそらく「ある程度の高度な技術」という条件をわかりやすくした、と言うところではなかろうか?


[発電能力]
 SimCity classicは地区、という単位でしかわからないため、どういった基準でそれが決まっているかわからないとどうしようもない。また、ここでそれを検証しているスペースはない。その為それ以降のデータでのみ考えていくことにする。
 SimCity 2000では一日の(最大)発電量として表示されていたが、3000以降では月当たりの発電量と変わっている。その点は大した変化ではないが、天気の変化がないから([#035]参照)そのように一ヶ月単位のシミュレーションに組み直した可能性が高い。が、一日500MWが一ヶ月16000MWになったとしても、これを一日換算しても16000MW÷28〜31=571〜516MWということで、大した変化にはなっていないことがわかる。

 では、この発電量が適正かどうかを見なければいけない。そこで、1690年代、70年代に運転を開始したアメリカの原発のデータを見ると、
現在も稼働中の原子炉(営業運転の古い順、上位10炉)
原子炉名 発電方式 発電量(MW) 建設開始 営業運転開始
Oyster Creek BWR 605 1964/1/1 1969/12/1
Nine Mile Point 1号炉 BWR 621 1965/4/1 1969/12/1
Dresden 2号炉 BWR 850 1966/1/1 1970/6/9
R.E. Ginna PWR 498 1966/4/1 1970/7/1
Point Beach 1号炉 PWR 505 1967/7/1 1970/12/21
H.B. Robinson 2号炉 PWR 683 1967/4/1 1971/3/7
Monticelllo BWR 597 1967/6/1 1971/6/30
Dresden 3号炉 BWR 784 1966/10/1 1971/11/16
Palisades PWR 767 1967/2/1 1971/12/31
Point Beach 2号炉 PWR 507 1968/7/1 1972/10/1
EIA(エネルギー情報局)「U.S. Nuclear Reactors」
Reactor Data:Reactor Status Listより

 このようになっており、あながち的はずれの数字でないことがわかるだろう。ただ、最大規模クラス(1200MW台)の原発と比べるとどうしても見劣りがしてしまうが、ゲーム登場時の性能で考えれば仕方のないことだろう。それは、技術変化、巨大化に対応していないというシステムの方の都合だからだ(もし、その要素があれば、西暦3000年には原発は最高の代物になっているかもしれないが・・・・・・)。
 これらの数字を見ると、[#038]で述べた「SimCity側の表記ミス仮説」があながち外れてもいない、と言う感じにも見える。やはり、SimCityの発電量は、MWhじゃなくてMWで良かったのだろう。SimCity内の発電量のシステムは、「発電量から建物の要求電力量分を引く」という単純な仕組みになっており、SimCity 3000で発電量・使用量が月あたりで表示されるのは、それぞれの建物の電気使用量が月あたりいくら、となっているからだと推測される。

 ちなみに先ほども挙げた世界初の原発イギリスのコールダーホール原子力発電所は35MW、アメリカのシッピングポート原子力発電所は60MWだったと言う話だ。



[建設費用]
 そもそも、建設費用というものは、一番外部の影響(物価、人件費、材料費、法律、政治等々)を受ける代物なので一概に比較できない。その為、参考程度に建設費用を見るしかないだろう。・・・・とはいうものの、そもそもSimCity内の価格についてこれまで一度も検証していない。アメリカで70年代に建てられた原発は1億数千ドルだったと言われており、80年代には十倍近くになったという話もあるが、SimCityのお金の単位(3000以降はシムオリオン)はそこまで大きくない。これについては追求のしようがないが、苦し紛れの計算で、SimCity 2000内で$15,000が$1億5千万と想定するならば、SimCity2000のお金は「1万」分省略されているのかもしれない・・・・考えすぎだが。
 参考程度にカリフォルニア州の州都サクラメント市のランチョ・セコ原発(最大出力913MW)の建設費用は、インフレなども関わって当初の予定の2倍である3.75億ドルかかった。建設期間は5年間だ(SimCityではないと困るからすぐ作れてしまうが)。

 また、ゲーム内ではその要素がないのだが、実際には「廃炉処理」※2にもかなりの費用がかかる。この点に関してはかなりの不経済であり、日本ではやったことがない(停止したのならある)から大きな問題になってないが、すべての原発が廃炉処理を行うと、恐ろしいまでの費用が必要となる。もっとも、「だから今使っているものは廃炉に出来ないのだ」という議論の元にもなっているが、一つの施設が永久に働き続けるなんてことはできないので、金(と時間)がかからない内に廃炉にする事も一つの決断でもあると指摘されている。SimCityはブルドーザーで一瞬に消せるのでそんな苦労はしない・・・が、ひょっとしたらSimCityをやっているような感覚なのかも知れない。
 参考程度に、前述のランチョ・セコ原発の廃炉コストは4億ドルを超えているそうだ。

 石油危機以降、原発の建設コストも上がり、稼働率も理論値には届かないことも多くあり、石油や石炭発電よりも効率が悪くなったというが、SimCityではかろうじて原発の方が高い。これはきっちり管理されているということだろうか?
 建設費だが、ショーラム原発の費用は1965年の2億4100万ドルが84年には40億ドルとなった。ミッドランド原発の費用は、1969年に2億6700万ドルだったのが、84年には44億ドルとなった。マーブル・ヒル原発は1978年に14億ドルであったが、84年に70億ドルに膨張した。


[寿命]
 原子力発電にも寿命がある。一般的に原子炉の寿命は40年程度を考えて設計してあり、メンテナンスなど頑張って60年が最大と言われ、アメリカでは法律で運転認可期間は40年と決まっている(60年まで延長できる)。ただ、原発自体登場からまだ60年も経っていないので、具体的にどうかというのは残念ながらわからない。もっとも、古い原子炉は規模が小さく経済効率が悪いため30年程度で廃炉にこともある。
 SimCityでは、原発の寿命は60年で、48年辺りから発電力が極端に落ちる「減退期※3」を迎える仕組みになっており、これは先に述べた原発事情を反映したものになっているように見える。ちなみにこの数字はSimCityに登場する発電所の中で最も短い寿命である。そのことも考えれば、すごく得でもない(ゲーム開始当初のお金がないときには助かるが)。
 
SimCity 3000の発電所の寿命と年間費用
(作成者:☆ゆう@LocalCity
発電所名 価格(§) 寿命(年) 1年あたりの
費用(§)
石炭発電所 5,000 70 71.43
石油発電所 8,500 70 121.43
ガス発電所 4,500 80 56.25
原子力発電所 20,000 60 333.33
風車 250 120 2.08
ソーラー発電所 15,000 100 15.00
マイクロ派発電所 30,000 80 375.00
核融合発電所 30,000 60 500.00
※減退期省略
 
 
 その他にも、実際の原子力発電所には、「資源」の問題、「核廃棄物処理・リサイクル」の問題などの問題が大きなウェイトを占めている(興味がある人は調べてみて下さい。火力発電所の資料よりたくさん見つかります)。ただ、実際の都市と同じように、そういった点は原子力発電施設そのものを語るものではなく、「原子力推進」への問題提起になることになる。
 

 以上のことから整理してみても、やや単純化しすぎな面があるのも否めない。もちろん、それは「施設」として見ていることの表れではあるが、「原発」を焦点に当ててプレイする上では若干マイナスな点と言える。まぁ、そのおかげでメルトダウンが発生する確率が現実に比べてものすごい高いのかもしれないが。


※1・・・EIA(米エネルギー情報局)「U.S. Nuclear Reactors」より、2002年5月31日現在の認可された原子力発電所
※2・・・原子力発電所をスクラップにすることなのだが、施設は「核」を扱っているので、放射能汚染された部分は核廃棄物として処理(埋める)される。また、すぐに解体すると放射能が多いから、しばらく時間をおくなど、時間もお金もかかる作業である。
※3・・・減退期は通常寿命の80%の年数(石油火力発電は寿命70年で減退期は56年ごろから)で、使い方によっては変動するらしい。

参考文献:「アメリカの電力自由化 −クリーン・エネルギーの将来−」「図解 電力システム工学 −電気をつくる・送る・ためる!−」「とことんわかる エネルギーのしくみ」「脱原子力社会の選択 −新エネルギー革命の時代−」「なぜ脱原発なのか? −放射能のごみから非浪費型社会まで−」「ネガワット −発想の転換から生まれる次世代エネルギー−」

参考Webサイト:
 原子力情報資料室
 原子力のページ
 原子力図書館 げんしろう
 原子力情報なび
 US Department of Energy Energy Information Administration(連邦エネルギー省 エネルギー情報局)
 経済産業省 資源エネルギー庁
 電気事業連合会
 中部電力
 
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