[#005]
 規制とデザイン
(02/01/14)
 あまり深く考えたことはないかもしれませんが、どこまでSimCity3000内の建物が現実を意識してデザインされているか考えなければなりません。まずはデザイン的な事から考えてみましょう。


 これは「ミーク Cr.」という1×1の低密度住宅です。このようにいかにも「フルハウス」などのようなアメリカのホームドラマに出てきそうな建物ですね。向こうでデザインしてるので当然です。見ていただいてわかると思うのですが、塀がありません。めんどくさかったからとも考えられますが、あちらさんの家は塀の代わりに柵を使うことが多いようで、ないところも多くあるハズです。


全部 ミーク Cr.
 日本ではどうでしょう?右の図はシムシティ3000スペシャルエディションの建物セット交換(※)で「ミーク Cr.」を(左上から)標準、西欧風、アジア風にしたものです。標準(アメリカ)以外ではこのぐらいのサイズの建物には塀が付いている物が多いです(やや大きな1×1の建物にはありませんが)。日本でものどかな田舎の方へ行けばまったく塀のない家というのも珍しくありませんが、基本的には家には塀が付いている場合が多いです(長屋型でも裏庭には塀があったり、生け垣があったり)。


 「ミーク Cr.」の建物セットを変えた3つの建物をよく見ていただきたいのだが、標準の「ミーク Cr.」は他の2つの「ミーク Cr.」と比べて、塀がないばかりか広い庭を持っています。土地が広いからというのもあるのですが、アメリカでは「都市」が生まれた時代が他の地域よりも遅いため、自動車などに対応、生活の質向上などの関係から敷地の、一つの建物に対する面積が小さくなっております。とはいっても、建物自体は日本の物より大きいので、アジアンセットなどは3倍どころか4倍ぐらいで表示されているかもしれませんが、どうしてもデザイン上アメリカの物より広い庭があるようなデザインを避けたものと思われます(日本の家はウサギ小屋、というたとえがありますし)。これは後付の機能の宿命でしょう。


 さて、広い庭は誰でも欲しいのですが、だからといってせっかく建物を建てられる面積があるのに庭にしてしまう人ばかりなのか考えてみましょう。
 まぁ、住居ならば生活の質、レクリエーション性などを考えて広い庭を造る人は多いでしょう。しかし、商業や工業のいわゆるビジネスの現場では効率性を重視するので、「余分な土地」を作るはずもありません。みなさんも経営者の気分になって考えてみましょう。もちろん、社員の憩う場所もないような物ばかり作るとは思えませんが、景気が苦しくなればなるほどそういう職場の環境面を二の次にする経営者がたくさん出てくるので、法をかけて、ある程度の規制をするわけです。

 住居の関して言えば「日照権」が大きなウェイトを占めます。
 日照権は「誰にでも日光を浴びる権利がある」というものです。開発者は基本的に土地を高度利用(たくさんもうけが出る)をしようと考えて建てるものですので、まわりの住民に文字通り大きな響を与える物になり、生活者の日照権を脅かします。
 これによって各戸の土地に対して建設に対する規制をかける必要性が出てきます。どんな規制かというと、「この建物では高すぎるので、もうちょっと低くしなさい」とか、「建物の上層階の方の床面積を小さくして、隣りに落とす影を出来るだけ小さくしなさい」というようなものです。これを用途ごとに法で規定しておくわけです。

 ちなみに皆さんの住んでいる街にも規制がかかっています。だから、「家を壊してデカイお店を作ろう」などとしようとしてもいきなりはできない土地もあるので気を付けてください(日本の場合は用途地域制といいます)。

 何もこういった規制は日照だけに限りません。非常時における緊急車両の通行・停車スペースがなかったりしてもいけないし、ビル間の通風に問題があってもいけません(ビル間が近ければ突風が吹きます)。低密度の住宅街では緊急車両が庭を通れるようになっているところもあるそうです。
 なによりも優先すべきは地域社会の幸福であり、人命です。個人個人ではどうしてもそういうのが疎かになるために、行政という立場がそうならないようにしているわけなのです。


 そうして、その為に「形態制限」をかけます。・・・なにやら難しそうな言葉ですが、要は「この用途地域で定められている土地では、こうこうこういった建物にしないとダメですよ」という条件が定めておくことです。ちなみに手抜き建築とは違います。

 言葉で説明するよりも左図を見ていただければわかるのですが、この矢印で表示された物のような壁面を道路から離す規制を「セットバック(壁面後退)」といいます(この家がその規制に基づいてるかどうかなどここの法律を見てないのでわかりかねますが、ビルでもあるので見ておいて下さい)。
 これは、火事などが他の家に飛び火しにくいような距離が定められていたり、緊急車両の通れるスペースが確保されたり、ビルのような大きな建物であれば少しでも影を小さくするため(距離が離れていれば影は小さくなる)の手段などに使われます。一階部分じゃなくても下の階から比べると床面積を減らすモノをセットバックということはあります。こういったセットバックなどの条件が形態制限のひとつです。


オープンスペースだらけの高密度住宅「汚いテラス」
 もう一つ、「オープンスペース(空地=くうち)」というのがあります。これも同じように緊急用のスペース確保でもあるのですが、セットバックと違い、空間的広がりを持たせるようにしたもので、公共性のあるものを主にそういいます(空き地は公共性のないものです)。公園なんかもそうです。
 まぁ建物に余裕を持たせておくということでしょうかね。

 定義が難しいのですが、言葉通りだと思ってもらっても特に問題はありません。右の図のように、建物のオープンスペースも法律にて規制されていることがあります。

 「斜線制限」というモノもあります。基本的に家は三角屋根が多いのに、ビルはそれがないので、必然的に影が大きくなってやっかいなので。この斜線制限に引っ掛かる所は建物の一部にしてはいけない、という制限だと思ってくださればわかりやすいかもしれません。
 そして、この斜線制限によって削り取られる部分が「オープンスペース」ともなるのです。どちらがどうというわけではないですが、斜線制限はどのくらいの角度で、何メートルの範囲か、とか「立ち上がり」との兼ね合いで色々とややこしいのですが、オープンスペースは建物に対する空き空間率を要望する規制で、%で指定されます(それだけじゃないんですが)。


 そうです、SimCity3000で、高く行けば高く行くほど階面積が小さい建物を見かけるのはその為(特にセットバックのため)です。セットバックが建物のデザインを決めてきた、またそれによって建物のデザインの仕方が変わった、とも言えるでしょう。これに限らず法律によって文化が変わることなど良くあることです。
 高密度の建物は高さが半端ではないのでそのセットバックも凄いのですが、とてもじゃないが影がなくなるとは思えませんが、やらないよりはましです。それに、一応住宅街の方が低くなっているのは考慮しているからとも言えるでしょう。高密度だから高級な土地になるとは限らないと言うのはこういう所も関わっています。
オープンスペース(左の芝生)とセットバックをデザインに取り入れた「アキリーナビル」と「イイカンジプロジェクト」
レンガアパート(住宅)とCGZプラザ(商業)は同じ4×4の高密度でも高さがかなり異なる。この差も規制から来ているということである。ちなみにCGZプラザはニューヨークにある「500 fifth Ave.」というビルそのものです(写真参照)。

 もちろん、他にも「容積率「建蔽率(けんぺいりつ)」などなど重要なモノがありますが、前者は土地に対する使用空間率、後者は上空から見た土地の使用率というだけです。こういう様々な規制が組み合わさってから建物のデザインが決まるわけです。

 SimCity3000が別にそういうことを気にしながらやっているわけではなく、実際の建物がこういうモノが多いのでこういうデザインになっているわけですが、日本では余り見かけない建物が多いのは(特に高層ビルに)上のような規制が厳しく、そして敷地面積自体が大きいからこういう形であることも忘れてはなりませんね。

 あっと、#004で証明したように建物の大きさはすべて約3倍弱ぐらいしてあるハズですから、3×3の高層住宅があるとするならばその3×3=9エーカーの土地の中に2〜4本ぐらいビルがあると考える方がいいわけです(実際は同じ建物が並ぶことはないのですが、代表として表示されてると考えてもいいと思います)。


 でもSimCityではこういったオープンスペースが災害時に役に立っているとは思えませんが
※建物セット交換・・・シムシティ3000スペシャルエディションから搭載された機能で、標準のアメリカ的なデザインの建物群(住宅・商業地区、公共施設)をヨーロッパ風、アジア風にすることが出来る。そうすると横浜ランドマークタワーのような建物に変わったりする。

参考文献:「都市緑化計画論」、「ゾーニングとマスタープラン」、「アメリカの都市開発」、「現代アメリカ都市計画」
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