[#026]
 市長と市議会
(02/11/09)
 SimCityはアメリカの自治体の分類上「市長・議会型」であると[#010]で説明した。
 これは行政長官である市長(首長)と立法機関である議会によってチェック・アンド・バランス※1)の関係にある方式で、自治体における一般的な形である。これは連邦政府による大統領・連邦議会による二元主義と同じようなものであると言えるだろう。また、頭に入れておくべきものは、自治体が立法・行政・司法的権限を持つ「地方政府」であるということである。
 司法権なんてないようにも感じるが、整地ツールを使って「強制的な立ち退きをさせることが出来る」などは司法的権限を有していると考えることが出来る。州法に従うというのはゲーム上の制限と考えてもらえばいいだろう(予算の形式が決まっているなど)。


 しかし、「市長・議会型」には市長が強いタイプと議会が強いタイプなど様々な物がある。まず、一般的なアメリカの市長と議会の役割・特徴をまとめてみることにする。

【市長】
  • 行政的・立法的・司法的権限を持つ
  • 任命権および解任権によって、行政(各部局)および行政職員に対してかなりの統制を及ぼせる
  • 州法および市条例を施行する義務を負う
  • ほとんどの市で市議会に対し予算案を編成し提出することが義務づけられている
  • 市議会に対し勧告する権限が与えられていて、自らの計画を支持する世論を喚起することが出来る
  • 人口が5000人を超える市の半数あまりの市長は拒否権を持つ(但し、市議会の2/3の投票で覆せる)
  • 市長の資格・条件
    • 特定の年齢であることや少なくとも一定期間その市の住民である有権者
    • 住民によって1〜4年の任期が決まった上で選出される(一般的には2年、大都市は4年)
    • いくつかの州や市ではリコールされる可能性もある
    • 知事によって解任されることもある
    • 都市によって給料はまちまち
【議会】
  • ほぼすべての都市が比較的少数の議員からなる一院制の立法機関である
  • 選出方法・任期は様々。任期は2年が一般的
  • 特に議会優先型(後述)政府では地方自治体の重要な政策決定機関である
  • 条例を制定
  • 税の賦課
  • 歳出予算を決定する
  • 行政部局を調査する権限を行使できる(首長優位型(後述)では重要)
  • 通例、週に一度行う。多くは市憲章に規定された日に開催(特別議会は通常少数の議員によって招集できる)
  • 憲章で定められていなければ議会が議長を選出
  • 議会は市憲章と州法に含まれている制限に服しつつ自ら運営手法の規則を制定
 ・・・といったところだ。下線が引かれているところがSimCityで「プレイヤーが」行える物である。例によってそれぞれの街の「憲章」によって様々な違いがあるのはいうまでもない。

 逆に議会での機能として存在する「条例の制定」はある程度条例の形が決まっている(作られた条例の中から選択)という制限内でSimCityでは市長であるプレイヤーの手にゆだねられているという点で異なる。また、税・予算などがあるが、予算についてはまた別の機会にレポートするが市長の行政権による予算編成が一般的のようである。その為税の賦課・歳出予算というのも操作上の便利さを考えまとめてしまってあるのだと思われる。

 しかし、SimCityでは市長・議会ともにその特徴すべてを満たしてはいない。任期や給料などはさておき、市長に限って言えばほとんどが議会との関係がそれである。SimCityに議会がないから当然とも言えるわけだが、議会にも前述した様に機能があるわけだから、なくていいというシロモノでもない。そこでアメリカにおける現実の市長と議会の関係を見て見る必要がある。


 まず、「市長・議会型」には極端に分けて、議会に力がある「議会優位型」と市長に力がある「首長優位型」に別れる。もちろん、その間も段階的に存在するのだが、極端な方がその特徴差を見いだし易いためこのように分けて説明していく。

【議会優位型】・・・初期の州政方式に似ている。行政と議会(立法)の分権が行われているタイプ
  • 議会の支配と行政の分権
  • 多くの行政部局は、市長および議会の両者から独立していることが一般的な公選の委員会によって指揮される
  • 首長が行使する権限についても議会の承認が必要
  • 首長の持つ拒否権も多くの都市では議会の2/3の投票があれば無効化できる
  • 首長に行政を監督する責任があるが、全うするだけの権限をほとんど持たない
【首長優位型】・・・首長(市長)の地位を強化することによって議会優位型の欠点を部分的に除去
  • ほとんどの独立の部局の長などに分散されていた権限は首長に集中
  • 首長は議会の承認を経ることなく自治体のほとんどの部局の長を任命し、解任する
  • 首長は年度予算編成の責任を負う
  • 市議会は政策だけを決定し、原理から言えば行政には干渉しない
  • 独立して選出される各種委員会は除去されるか、もしくはその数を大幅に減らすので投票が簡単になる
  • 小都市では議長でもあり、可否同数の場合には投票することが出来る(この場合事実上の決定権を持つことになる)
  • 大都市では首長は議会の構成員ではないが、法案の勧告をしたり、議会の特別会を招集することが出来る
 大体このように分けることが出来、見てわかるようにSimCityは首長優位型になる。権限の集中や予算編成責任などはSimCityそのままだが、部局の長などの任命権がない事とか、政策を決定するという市議会も存在しないということが異なる(行政部局的機能はプレイヤーの手に委ねられる形となっている)。首長優位型であっても議会がないという事は存在しないというのが民主主義システムであるが、SimCityには存在しないワケである。

 そもそも「市長・議会型」の自治体では、市長の活動は市議会によってチェックされ、市議会もまた市長をはじめ多数の独立した行政委員会から監視を受けるという権限の分散化が図られている(前述したチェック・アンド・バランス)のが普通ではあるが、先に見たようにどちらかが力をより強い力を持つ、ということが現実にはあり得る。


 そもそも、首長優位型というのは議会優位型の欠点(責任分散、集約的指揮力のなさ、選挙がめんどくさい)を部分的に除去しており、メリットとして
  • 首長に予算編成と行政指揮権限を持たせることによって行政能力を強化できる
  • 委員会がなくなるので※2)投票が簡単になり、議会が首長を中心にまとめやすい
  • 行政の責任は首長が持ち、責任の転嫁が出来ない
デメリットとして
  • 公選の市長はしばしば行政的な指導力や能力をほとんど持たない「政治屋」である
  • 固有の権力の分離によって、首長と議会の間に混乱や不活動や行き詰まりというような対立を生み出す傾向がある
 ということがあげられる。形としては議会優位型の欠点を補うべく首長優位型を採用しているわけだが、首長優位型で弊害がないわけでもないので実際はそれぞれの自治体によってそれは異なる、という感じである。一般的には議会優位型は随分減ってきているらしく、特に大都市では「大統領制」にも似た首長優位型を採用するケースが多い。

 基本的には首長優位型というのは、首長が力と責任を持つ形になるのでワンマンになることが多くなる。9・11テロの事件後に一躍世界的に有名になったニューヨークのジュリアーニ市長政権下などがいい例だろう(おまけコラム参照)。



 [#011]で議会がない理由についてやりましたが、前述したように市議会がなくていいということにはならない。とはいってもその議会というものが完全にないということは都市の運営に支障をきたすので、議会機能がどこかに埋め込まれている(その多くは市長であるプレイヤーに委ねられているとは思いますが)と推測されるわけです。

 そこで前述した議会の役割をSimCity的なものに限って上げると
  • 条例の制定
  • 政策の決定
 が上げられる。条例はSimCityにも登場する物だが、決定権は市長であるプレイヤーの手に委ねられている。
 しかし、この条例というものは、市長が「これやろう」と提案できる物ではなく、SimCity 3000ならばアドバイザーなりを通じて、SimCity 2000ならば新聞なりを通じて「この条例が制定できますよ」と言うことを市長に教えてくれる形となっている。その点から見ても、完全に市長と分離した状態で条例を制定する議会みたいな存在があることがわかり、議会による条例の制定、首長による条例の施行というプロセスがそこにあるとする事が出来る。
 首長優位型であるなら立法である議会と行政である首長は分けられているのだからそう考えてもおかしくはないだろう。また、議会に対して何も言えないという関係も完全な分権が行われていると考える事が出来る。

 では政策についてはどうだろう?政策というのは政治的指針など漠然とした物を指すためSimCityでどう表現したらよいのだろうか。単にプレイヤーの意志、としてよいのだろうか。それはそれで納得できるかもしれないが、政策というのはそもそも予算と連動しているもので、やや強引だがSimCity内で予算をコントロールする事の中に目に見えない議会がある程度の政策を調整している物とも考えられる。もちろん基本はプレイヤーの意志、だろうが。

 ただし、これでは議会という物は存在しなくても良いことにもなってしまう。議会が存在する理由は立法機関であることと、行政の監視役となることである。これはいくら首長優位型でも変わることはない。プレイヤーの監視をプレイヤーに委ねてはただの独裁ができあがるというわけである。しかしSimCityではプレイヤーは市長の独裁を停めるべき議会はないので好き放題出来る。逆に言えば議会の必要性を感じることが出来ると言えるだろう。


 これは[#011]でも述べられていることだが、あくまでも行政的立場ではなく都市というもの自体を対象としたモデル認知に当たるのがSimCityなので、そこまで問うのはちょっと厳しいのかもしれない。もちろん、ここに挙げたアメリカの市長と議会の関係は一般論であるので一概にはこうであるとはいかないという点も見逃せない。何せアメリカの自治体は[#009]で述べたように必要に応じて作られた物ですから、計画もなしに発展して、複雑化してきたという側面もあるのですから。
 

※1)チェック・アンド・バランス・・・権力などを分散し、各権力による相互の監視を行い、牽制と均衡をしながら一つの権力による独裁(専政)を防ぐ仕組み。checks and balances
※2)委員会の人員5〜10名は公選で選出される。委員会は所によってはかなりの決定権を持つことも多いため、それがなくなれば市長による統制がしやすいという面もある。

参考文献:「現代の都市法」、「特集 海外の地方分権事情」、「地方自治の世界的潮流(上)」、「アメリカの地方自治」、「アメリカの地方自治−州と地方団体−
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