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 警察−自治体警察(1)−
(03/01/15)
 SimCityはClassic時代からユーザーが警察が設置できる(消防も)。それぐらい都市運営には欠かせないものだと言うことは皆さんおわかりだと思うが、特にアメリカの「都市」において警察というものは欠かせない存在である。それはアメリカでは犯罪が多いからという理由からというのもあるが、その他にも自治体の強権的な力を行使するのに欠かせない存在だからだ。

 これは、アメリカの(あくまで都市部の)警察は日本ではあまり馴染みのない「自治体警察」のためです。自治体警察と言ってもピンとこないかもしれないが、アメリカの映画でよく登場する「ニューヨーク市警(NYPD)」とか「ロサンゼルス市警(LAPD)」という「市警察」がそれだ。市などの自治体が持つ警察だから自治体警察という。ちなみに消防も自治体が持つ。


 ではSimCityの警察が自治体であるという証明はどこにあるのかを説明しよう。

 SimCityの警察はシリーズを追ってもほとんど変わらない。というかまったく変わったところが見えないと言ってしまった方がいいだろう。

 これを読んでいる方は警察の機能をご存じだと思うのが、今一度おさらいしてみる。
 SimCityに登場する「警察」は(条例でも少し登場するが)いわゆる「警察署」という形で登場し、3×3タイルの面積で建設できる。その機能は、警察署を中心とした「ある一定の範囲内の犯罪率を抑止する」、というもので、警察署から離れれば離れるほどその力が弱まるというものである。なお、(これもClassicからあるのだが)警察の予算を上げればその範囲が広くなり、下げれば範囲が狭まり、時にはストライキが起きるというようになっている(消防も同じ)。

SimCity
Classic
(PC98版)

SimCity 2000

SimCity 3000
 
 こんなSimCityの警察署だが、今の説明で出てきた「警察の予算」という項目が日本には馴染みがない。日本の警察は警察庁(後述)と都道府県の予算によって成り立っている。SimCityの都市サイズに相当する(日本の)市町村は、警察の予算を編成する権限はないわけだ。
予算スライダの変遷
SimCity Classic 0〜100%
(1刻み)
SimCity 2000 0〜100%
(5刻み)
SimCity 3000 0〜120%
(謎)

 そう、これこそが自治体警察であるという証明なのだ。



 このように馴染みのない「自治体警察」というものを理解するために、SimCityの警察を分析する前に警察の「制度」の方をまずは整理していこう。

 ご存じの通り日本では「警察」といえば警察庁が組織する警察行政機関だ。その組織体系は
  • 国の警察組織(国家公安委員会・警察庁)
  • 都道府県警察(警視庁・道府県警察本部・警察署・交番・駐在所)
 に分けられる(詳しくはこちらを参照)。

 皆さんが慣れ親しんで、(色々な意味で)お世話になっているのが後者の都道府県警察だ。一応、地方自治的建て前があるので、都道府県警察は国家警察である警察庁と違う組織―自治体警察―ということになっているが、都道府県警察の予算も一部握っていることもあり警察庁の管理下にあるため、都道府県警察を自治体警察とはあまり言わないようである。こうなってくると(多少強引だが)警察庁は警察事務を担当する警察組織と理解した方がいいかもしれない(テロ対策なども担当しているけどね)。

 この、地方自治というのは、警察庁が内閣総理大臣→国家公安委員会→警察庁(警察庁長官)・・・という構造を持っているのに対して、都道府県警察が都道府県知事→都道府県公安委員会→警視庁(警視総監)・道府県警察本部(道府県警察本部長)・・・という構造を持っているからである。ようするに、都道府県警察は、実質的権限はないものの知事の下におかれることになっているわけである(その割には言うこと聞かないですが)。ちなみに東京都だけが警察本部ではなく警視庁となる。警察庁と警視庁は似てるようでまったく異なると言うわけ。

 皆さんも警察が地方分権化されて、中央から独立していると感じることはあまりないですよね?


 日本でわざわざ地方自治的に警察を分けているのには理由がある。それは、警察の配置が便利だからと言うだけではなく、地方政治・事情に対応するためである。日本の場合、なんでも中央集権的なのでどこの都道府県に行っても大して行政的な違いがないように感じますが、近年はそうでもなくなって来ているのは三重県の北川知事や東京都の石原知事などの行動からおわかりでしょう。各都道府県が独自の政策を行い、独自の政策の維持を行うのが本当の姿なわけです。しかし、世の中ある程度の強い力、強権力が必要になる場合があります。そこで出てくる法的根拠に基づく強権力の行使が出来る存在、警察が必要になってくるわけです。元々警察というものがそういう存在だったから地方政治に対応する形を持っていないといけないのです。

 これは何も珍しいことではなく、地方自治のためには当たり前に備わっているべき自治体の権限です。これはSimCityの基本システムのルーツであるアメリカでも言えることです・・・・というかアメリカはもっと必要としています。


 「地方自治」のために存在する自治体警察があるアメリカの警察は、日本では考えられない程の強権的な行動ができます(めちゃめちゃひどいことは世間が許しませんが)。それがSimCityにおける「ちょっと強引すぎない、ソレ?」というような行動が出来る原因なのかもしれないと言うことを支えているのかもしれません。



 ということでアメリカの警察制度について触れてみよう。
 アメリカの警察は、簡単に分類すると
  • 連邦警察機関(司法省・財務省・運輸省等担当するものにより異なる)
  • 州警察組織(州警察・市警察・郡警察)
 となっていて、一見日本のものとそっくりなように見えるが、実際は 
 

村川一郎 著 合衆国警察制度 しなの出版/1969より
  
 こんなようになっている。かのFBI(連邦捜査局)は国家警察のようにも見えるが、その名の通り「捜査」のお仕事の担当。日本の警察庁のような警察組織の大元締めのような存在ではない。しかも、ここに列挙されているように様々な省が「警察的な仕事」を担当するため、完全なる連邦警察組織というものは存在しない。

 日本とは(国家体系が違うので当たり前ですが)比べられません。FBIと同じように有名なCIAは警察機関ではありませんよ。


 また、この図により、(資料が古いので若干の違いはあるだろうが)、地方は州警察と自治体警察の二本立てと言うのがわかる(郡警察は郡が州の下位機関である為州警察に近い存在なのでそうしておく)。

 これは都道府県警察のみの日本と大きく異なります。現在、日本は自治体警察、と言うか都市警察を持っていません(一応都道府県警察が自治体警察ということになっていますが)。ここで現在、と付け加えたのは日本は戦後まもなくの時代に自治体警察を導入していたのです。そうです、札幌市警や大阪市警などがあったのです。これについては別の機会に説明することにしましょう。

 [→警察−自治体警察(2)へ]
 

※NYPD・・・ニューヨーク市警察局、New York (City) Police Departmentの略。9.11テロ以降、NYFD(Fire Department)とともに英雄視された。SimCity Classicでは建物の屋上にPDとかFDとかの文字が表示されていた。

参考文献:「岩波講座自治体の構想2−制度−」、「シムシティ3000公式戦略ガイド」、「ゾーニングとマスタープラン」、「合衆国警察制度」、「近代日本の警察と地域社会」、「現代の都市法−ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ−」、「日本の警察」、「日本の警察 FOR BIGGINERS」、「破綻と再生 −自治体財政をどうするか−」、「米国の地方財政」

参考Webサイト:愛知県警察警察庁
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