[#035]
 アメリカの電力事情
(03/05/22)
 毎度のことだが、SimCityはアメリカ製である。そんなわけで電力事情もキチンと整理していかないといけない。

 電力の供給というのは日本では東京電力、中部電力、関西電力などの大手電力会社が発電所・変電所・送電線等の設備を有し、コントロールしているということは皆さんご存じのことと思う。最近では電力自由化により、いくつもの電力事業者が増えてきたり、家庭でのソーラー発電を買電したりしてきているが、まだまだそれが大きな割合を占めているとは言えない。

 ダムなどの自然エネルギーを利用しない発電所を日本で発電所を建設するときに、自治体がお金をもらうことはあっても払うことなどないのではなかろうか?これは発電施設・送電施設等が地方自治体と直接結びついていない日本だからこそなのだ(最近は、ソーラープロジェクトなどを持ち上げる所もある)。
 そこから行くとSimCityの「電力」を取り巻く事情は日本と異なる感じもする。これはアメリカ製だからなのだろうか、それとも「都市」をテーマにしているからだろうか?


 そこで、アメリカはどうなのだろうか、日本と同じようなのだろうか。まずはこの表を見ていただこう。
 
企業形態別内訳(2000年)
発電事業者数 ←の割合 料金収入割合 販売電力割合
私営 240 7.6% 75.6% 73.7%
地方公営 2,009 63.7% 14.7% 15.6%
協同組合営 894 28.4% 9.1% 9.2%
連邦営 9 0.3% 0.6% 1.5%
合計 3,152 100.0% 100.0% 100.0%
US Department of Energy:Energy Information Administration
Selected Electric Utility Data by Ownership, 2000 より作成
 
 この表を見ていただいてわかるように、特徴的なのが「地方公営」「協同組合営」「連邦営」という存在だ。電力供給割合から比べれば大したことないが、発電事業者数の割合から行くと92.4%とかなりの割合を占めていることがわかる(販売量から行くとそうでもないが)。
 日本ではほとんどお目にかかれないこれらの発電事業者についても説明しないといけない。


【各営業形態の説明(「海外の電気事業」より引用)

 「私営電気事業者」・・・需要家への電力供給と共に、投資家に投資報酬を提供することを主たる目的として運営されている。私営を中核として、地方および協同組合営事業者が二次的な役割を演じている州が多い。ハワイ州ではすべてが私営事業者によって営まれている。その反面、ネブラスカ州には私営事業者が存在しない。供給区域は、一般的に州もしくは地方行政機関が交付する営業許可書または地域供給独占権に定められた地域となっている。

 「地方公営電気事業者」・・・地方自治体、公営電力区、潅漑区、その他州機関によるものが含まれており、非営利の事業者である。主たる設置目的は、当該コミュニティーや付近の需要家に可能な限り低廉な料金で電力を供給することにあり、大半が配電事業。地方公営電気事業者が発行する債券の利子所得には連邦所得税が課税されず、また通常、州所得税も免除される。料金の改定は、通常、当該地方議会が可決する条例の形をとり、州公益事業委員会の承認は必要とされない。供給区域は、一般的に当該自治体の行政区域と同じである

 「農村電化協同組合営電気事業者」・・・需要密度が低い農村地域は私営電力事業者にとって魅力的な市場ではなく電化が遅れた。このため、農民などが出資し、自らの電力需要を賄おうとするのが農村電化協同組合営の事業者である。農村電化協同組合営事業者の所有権は組合員に属し、その最も重要な資金調達源は、全国農村電化協同組合融資公社、連邦融資銀行、協同組合銀行である。供給区域は、大部分の州においてとくに定められたものをもたない。

 「連邦営電気事業者」・・・連邦政府は主として水力発電を電源とする卸売りを担当している。連邦機関による電力は、設置根拠法の優先供給条項により地方公営事業者、協同組合営事業者等の非営利機関に優先して供給されている。供給区域は、TVAを含めほとんどが卸売業者なので独占的なものを持たない。

 

 このこと(特に青い文字)から見て頂いて分かるように、ことSimCityに関わる部分を語るならば、「地方公営電気事業者」という地方自治体による公営発電事業という部分が大きく関わっていると言えよう。なぜならSimCityの発電所は行政の役割を演じるプレイヤーが設置するものだからだ(電気事業者からのオファーではない)。特にSimCity 4の場合は、運営費までも支払うことからそのことがよりいっそう色濃く出ている(下図)。
 

発電所の財源コントロールが可能となった。
「地元の財源」というのが一カ月にかかる
費用である。これにより財源の流入があると
言うことの証明になる

「地元の財源」と表示されていた発電所費用は、
自治体の公益事業費からの支出となっている。
収入の項に電力収入という物がないことからも、
電力は「電力会社」として料金収入を得ていて、
自治体の財政補助が別にあるということになる。

 このことからも、SimCityの電力は、アメリカの「地方公営」型であることが分かる。もちろん、SimCity 4がそうだからと言って全部そうではないともいえるかもしれない。だが、SimCityをプレイしたことがある方なら分かると思うがSimCityは発電所を建てることからスタートし、発電所自体を自治体(プレイヤー)の予算で建てるというのはSimCity classicの時から変わってはいないことを考えると、こう考えた方が自然だろう。

 ただ、先程「地方公営」のところで「大半が配電事業」と述べたように、しばしばそれらは発電機能をもっておらず、私営や連邦営から電力を卸で購入して配電していると言うこともある。これを考慮すると、自分で発電所を積極的に作らなければならないSimCityの発電所は一概に地方公営型じゃないかも、とも思えるが、3000から近隣都市から「買う」と言うことも出来るようになったことを考えると、これを「配電事業」と考えることも出来るだろう。近隣都市から買う、というのは地方公営としては不自然かもしれないが、そもそも公営企業がないから、そこまで考えても仕方がない気もする。

 一つだけ言えることは、SimCityでプレイヤーが電力を供給するのは、自治体の運営者であるプレイヤーの義務である、ということだ。これはアメリカ的電力事業者の事情から来ている、ということだ。


 
 アメリカの電力事情がこうなったのを正確に述べるのは難しいのだが、なぜこのようなものがあるかを説明しなければならないだろう。
 アメリカというのは広大な土地が広がっており、電力供給の採算がとりにくいためこのような地方自治体や協同組合による発電・供給というのが行われてきた、という歴史があります。それは大恐慌時代以来の電力事業者の集中を避ける動きと規制強化により、現在も維持されている。
 日本では、密集地が多いため、近代から大手の企業や電力会社による電力供給が行われてきて、20世紀前半から現在までそれは分裂、統合され現在の形になった歴史がある。

 とはいえ、そんなアメリカの自治的気質や、土地柄的特徴からそのような公営の発電事業者が多かっただけで、昔も今もアメリカでも大手電力会社(アメリカン電力、サザン・カンパニーなど)がその電力量のほとんどを支えてきたというのが特徴だ。余談だが、フランスなどはフランス電力公社(EdF)という一つの大電力会社が電力市場を独占してたり、ドイツでは市営の電力会社や大部分を占める私営電力会社があったりと国によって事情が異なる。
 というと、日本とアメリカ(とその他)ではまったくちがうようにも感じるが、やっぱりアメリカでも大手の電力会社数十社が総発電量の半分近くを占めているというように、まったく違うともあながち言い切れない。実際に民間の大手電力会社が地域的独占を計り、小さな電力会社を統合していくという流れもあったようだ。その為、今度はその独占による弊害により法規制を受ける格好となっている。



 また、[#034]で保留にしておいた件についてもここで検証してみましょう。それは
  • 時間変化の問題
  • 季節・気候の影響
 の2件です。


[時間変化の問題]


アメリカの電気の一日の使用量(だいたい)
 SimCity自体に存在しない一日の時間変化が挙げられるだろう(Sim4のは見た目だけの変化)。実際の電力というのは、一日中同じ電力が発電されているわけではないことは皆さんご存じのことかと思う。発電施設は「ピーク時間帯(右図の中央付近)に合わせて作られるため、時間変化がないと言うことは、「最大電力」という概念がないと言うことになります(SimCity内での最大電力は発電所の最大出力)。
 ピーク時間帯の概念がないということは施設の配置に影響を及ぼしそうに見えますが、逆に言うとSimCityの電気は、ピーク時間帯で考えられているのかも知れません。

 ただこれでは、ピーク時間帯別の電力コントロール(夜間の安い電力を使うエコアイス事業など)への対応が出来ないということの証にもなります。まぁ、それが都市の仕事ではないかも知れませんが、これから環境負荷の高い発電所の設置が厳しくなってくるので、こういう点が現実にも食い込んでくる(=都市発展に影響を及ぼす)ことが予測されます。
 そういう点ではSimCityの限界がかいま見えていますが、そこまで考えた都市経営が考えられているかというとちょっとどうだろう・・・という感じなので、一概にそう言ってはいけないのかも知れません。今までそうであった、という証明にはなるかも知れませんが。


[季節・気候の影響]

 電気と季節・気候の関係は切っても切り離せないものである。発電所に関していうならば、晴れの少ない季節や気候ならば太陽熱は使えないとか、風力を使うならば適度な風(強すぎると壊れるため使えない)がコンスタントに吹く場所でしか使えない等が挙げられる。電気ということに関して言うならば、先程述べたように夏になると電気のピーク使用量が増加するとか、気候の変化がないところでは四季のあるところより供給が安定したりする(それでも昼間が一番使うのだが)。特に広大な面積を抱えるアメリカでは、気候が激しく異なる事も多い。
 (SimCity 2000を除く)SimCityには基本的にこの概念がないため、発電所設置に本来あるべき多大な影響を及ぼすことがなく、(予算などの条件はあるが)自由に発電所を選ぶことが出来る。SimCity 2000だけ天気によって太陽熱発電の発電量が変化したため、クリーン発電所の利用を躊躇させる仕組みになっていたのだが、3000以降ではその要素は消えている(これは、本来砂漠などの日照の良いところに設置するソーラーなのに、ユーザーが気候が選べないことによりフル活動させられないという要因がやっかいだったからかもしれない)。



日本の電気の一日の使用量(2001.7.24)
(アメリカとは単位が違うから形だけ見てね)
資源エネルギー庁Webサイトより引用
 もっともこれらは、地域の独自性だけでなく、生活様式によっても大きく左右されることでもある。暑くてもクーラーを使わないという南太平洋のような生活もあるが、さすがにSimCityとはちょっとかけ離れているので度外視するとして、日本では一日の電気の使用量の割合が夕方〜夜にかけてアメリカよりも多いことがある(詳細はわからないが、右図)。これは、用途別ゾーニングがきっちりしているという都市の作りから来ていたり、やたらにネオンを使う夜の文化の違いや、オフィス・工場での残業の量や(ホントか?)、一人一台あるテレビなど家庭での電気の使い方、ヒートアイランド現象の違いなど、ここに紹介していないものなど様々な要因が絡んでいるだろう。

 こと日本国内に関していっても、北海道と沖縄では電力の使い方・使い道が異なる。沖縄には雪を溶かすものなど必要ないし、北海道にはかなり冷房が必要というわけでもない(最近では雪を冷房にしようなどと言う研究もあるそうだ)。


 SimCityにそういったもろもろの物を求めるのが酷だが(あったらゲームしにくいが)、シミュレーションするならばそういう点は欠かせないポイントだ。とはいえ、そのシミュレーションでさえあっているとは確実に言えないことだし、これまでどれぐらいそれが考慮されてきたのかと・・・どうだろうか?


    

参考文献:「アメリカの電力自由化」、「エネルギー2002」、「世界の電力ビッグバン」、「海外の電気事業」、「ネガワット」、「シムシティ3000 公式戦略ガイド」、「シムシティ2000公式ガイドブック」、「任天堂公式ガイドブック シムシティー」

参考Webサイト:
 US Department of Energy Energy Information Administration(連邦エネルギー省 エネルギー情報局)
 経済産業省 資源エネルギー庁
 電気事業連合会
 中部電力
 
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