[#038]
 アメリカの原発事情
(03/11/25)

 原子力発電は、核分裂反応を継続し続ける仕組みであるため、一定出力を供給するという点で優れている。これは、[#036]の表でも説明したようにベース電力としては最適な物であるということだ(点検期間が長いのが問題だが)。これは貯水量に影響される水力発電や、大気汚染を気にする火力発電にはないメリットである。
 そういうわけで、資源の少ない日本では、原子力をベースロード発電所として位置づけている。


 アメリカでの原子力発電事情の方からを紹介しよう。
 アメリカは消費電力世界一の国で、当然の事ながら発電電力量も世界一だ。その発電電力量の構成を日本と比べて見てみよう。
 

出典:IEA ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES (1998-1999)
(資源エネルギー庁「エネルギー2002」より)

 パッと見ただけでも、日本とエライ違うことが分かる。ただ、[#035]で述べたように、SimCityで電力をまかなうのは地方公営電力事業者ということになり、原発依存度というのは地域によってまちまちであり、SimCityでも同じように原子力に頼らないで電気を供給することは可能だ。

 これと言ったエネルギー資源がないところでも比率が30%いかないというぐらい、アメリカでは原子力発電が日本ほどは重宝されていない。それは、他の資源があること、原子力発電の経済効率が高くなくなったこと、そして脱原子力の流れが日本よりも強いことも大きな要因だ(これについてはコラム参照)。現在のブッシュ政権は原発を復活させようとしているが、それまでの流れは完全なる脱原子力の動きであった。以下にその歴史を載せておこう。
動き 関連出来事





1960年代〜
環境保護運
動が激化
40以上の環
境関連法が
成立した

1973年
石油危機発生
による経済成
長の鈍化、産
業構造の変化
により電力消
費伸び率が低
減。電力価格
も高騰
これにより原発
の価格競争力
喪失


1976年
ウォーター
ゲート事件発
生。原発推進
の共和党の
信用ガタ落ち




1980年代中期
複数の州で競
争入札制度を
導入。
1920 地方自治体の電力経営を奨励する連邦電力法が成立
1921 (カリフォルニア州で公営事業公社法が成立)
1957 シッピングポート発電所で米原発としては初の営業運転開始
1963 オイスタークリーク原発の発注を受け、キロワット時当たり$127
のコストと、建設単価の安さにより原発開発ブーム始まる
 ・原発は「クリーンで安くて安全」な電力源として期待される
 ・成長が大きい町では当たり前、と電力会社・公社が原発導入
1969 全国環境政策法成立
 ・電気事業者が建設に際し環境影響評価の導入
 ・連邦や州知事の許可が必要となる
1970 大気浄化法改正
 ・排出基準に達しないものに対しての排出規制が強化
1973 原子炉発注のピーク(41基)。74年(28基)。これ以降2〜4基に
1974 原子力委員会が、開発担当のエネルギー研究開発局(ERDA)と
規制と安全管理担当の原子力規制委員会(NRC)になる
1977 エネルギー省が発足
1976 (カリフォルニア州で原発問題が争点化し、新設禁止を入れた
 カリフォルニア原子力安全法発効。)
1978 公営事業規制政策法(PURPA)成立
 ・エネルギー保全と独占支配の打破をめざす(規制緩和)
 ・電気事業者に独立発電者からの買電を義務づける
 ・分散型電源の育成
 ⇒小規模発電事業者が増え、風力などに注目が集まる
 ⇒コージェネレーションの本格利用化
原子炉発注が大手、中小、公営に関わらず事実上0に
1979 スリーマイル島原子力発電所2号炉で部分炉心溶融事故発生
(かねてよりトラブル続きだったサクラメントのランチョ・セコ原発
 は同型炉を使っていたために廃止要求がさらに激化)
1986 チェルノブイリ原力発電所4号炉で爆発により放射性物質放出
1989 85〜88年停止していたランチョ・セコ原発が運転再開するも、
稼働率が低いため住民投票により閉鎖決定運転停止
コロラド州のフォートブレン原発の閉鎖。
ニューヨーク州ショーラム原発が州政府と住民の反対により営業
運転もせず、1ドルで政府に売り渡す(事実上閉鎖)。
1992 マサチューセッツ州のヤンキー・ロー原発の閉鎖。
カリフォルニア州サンオノフレ原発1号炉の閉鎖。
エネルギー政策法施行。
 (電源立地に困難になり、その対策として出てくる)
 ・送電の強制的託送を推進
 ・統合資源計画(IRP)により、包括的選択肢から様々な影響を
  考慮に入れた信頼性の高くコストの低い統合サービス計画を
  計画立案する。
 ⇒原発などの施設立地よりも総合的な電力利用始まる
1993 オレゴン州トロージャン原発の閉鎖についての住民投票。
投票は否決されたものの、経営陣が閉鎖を決定。
2001 ブッシュ大統領、原子力開発を再開すると発表

 このような歴史をたどっている。ちなみに原発の歴史は日米共に調べればどんどん出るのだが、火力発電の歴史を調べようとしてもこんなにも出てこない=それだけ原発の関心が高い、ということもあったりする。

 興味深いのは、日本では「資源の少ない日本ではオイルショックのようなことがあっては困るから(※1)」と原発を推進しているのに対して、アメリカではオイルショックにより、これまでの経済成長にかげりが見えて電力消費需要が鈍化し、インフレにより建設・維持コストが上昇してしまったが為に、原発のメリットが下がったことである。

 原発というものは、「大きければ大きいほど発電効率が良くなる」とされた施設の代表ではあるが、その分、停止した時の停電率が高くなったり、施設の巨大化は建設・運転・保守・点検(危険なものなだけに欠かせない)にコストがかかったりする皮肉な結果をもたらした。
 前者は当初は予期していなかった「トラブル」が原発につきものだということがさらに災いし、1978年の公営事業規制政策法(PURPA)成立に見るように分散化電力への道を広げることになり、後者は「安くて安定している」という原発のメリットを完全に否定される結果となった。これにより、電気事業者側が原発を建てるメリットが少なくなり、市民も「夢の発電施設」原発への信用をもたなくなったのである。


 スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故以前に、原子炉の発注がゼロになったと言うことはそういう点が大きく影響していることを示している。これにアメリカならではの強い市民運動と、多くが自治体の公営電力会社であったことに加えて、「核廃棄物処理(※2)が未だ技術化されていない」という問題はその処理(埋める)の影響を被る各州政府・自治体も原発の必要性と経営陣の行動を疑問視し、電気事業者も「不安定」「非効率」「高価格」な原発に二の足を踏むようになり原子力ブームは終わりを告げる。

 そして原子炉閉鎖をするようになるのだが、それはあくまでも「稼働率の低いもの」「費用効率が悪いもの」であり、全原発を廃止するということには至っていない。ただ、今稼働している原発が寿命を迎えた時、新たな原発を作るのかというかといえば、たぶんノーだろう。・・・・・ブッシュ政権は原子力産業の縮小化を防ぐため、他の部分ではCO2排出が抑制できないために原発開発へまた力を注ごうとしているが。


 ちなみに脱原発で一番先を行っているのはデンマークで、代替発電などにも力を注いでいる。逆に脱原発に逆らっている国は、フランス、日本、中国などアジア各国であり、いずれも「電力事業」を国家もしくは一企業が発電区域を独占している所となっている(フランスの場合、担当部局が核ミサイルと密接に関わっています)。その為、現在日本では原発問題、地球温暖化問題も絡めて、電力自由化によりその体勢を崩していこうとしている動きがある。



 こんなところで理解して頂けたかと思うが、アメリカの原発は登場した時期のように盛り上がってはいない。現在稼働しているのも、70年代に計画・建設されたものだ。アメリカの交通事情を説明した[#022]で示したように、80年代〜と大気汚染にこだわっていたアメリカは、大気汚染の影響の最たるものである火力発電所を廃棄して原子力発電所に変えるということはせず、風力や太陽熱・太陽光、地熱などの発電技術に頼ったのである。それは、法律によって誘導された部分も大きいが、市民意識がそれを助長させたともいわれている。
 特に、「風力ベンチャー(最近かげりが見えているが)」や「ゴミ発電」のように、クリーンエネルギーの成長が著しい。それを証明しているかのごとく、SimCityでは1980年以降に風力発電・太陽熱発電が建設できるようになる。


 もちろん、SimCityには建設費が上がるとか、原発に(メルトダウンを除く)トラブルがあるとか、原子炉の大型化があるとかいうことはないんですが、そんなに核アレルギーが日本ほどない国でも原発はSimCityの中でももっとも嫌われた施設で、地価を下げる要素はナンバーワンです。
 しかし、これによってSimCityにはそういった外部的な要因がないことによって「あくまでも同じ基準で」変化もなく生活が続いているとも言えるでしょう。もっとも、下のコラムのように、大きな動きがなければ「変化なんてしない」と信じ続けるということはよくありますけど。
 
サクラメント電力公社の脱原発─持続可能への転換
 アメリカはカリフォルニア州のサクラメント電力公社(SMUD)は、電力を効率的に供給する世界で注目されている電気事業者ではあるが、70年代は原発に悩まされた電気事業者である(詳しくは「脱原子力社会の選択」を参考にしてもらいたい)。

 SMUDは公営電力会社であり、それまで大手電力会社から電気を買うことによって電力をサクラメント市に供給していたが、原発を建てることによって「電力自立」を目標として、ランチョ・セコ原発を建設することにした。しかし、実際は夢の施設でもなんでもなく、トラブル続きで何度も停止を繰り返してきた。ランチョ・セコ原発は、他の原発以上に効率が悪く、稼働率は77〜80年は60%、81年〜は50%以下と、計画の80%を大きく下回る稼働率(全米でも約60%)というのが経済的にも最大の問題だった。
 とはいえすぐに廃止するわけにもいかないのだが、お金ばかりかかる上停止を続ける稼働率の低い原発に対して、市民、そして経営陣にも長い政治闘争の末「限界」と見切りを付けられ廃止することになった。その後も廃炉化にかかる費用など予想以上にお金がかかっている(費用は[#037]で言ったとおり)。

 脱原発を決めたとはいえ、(大規模太陽光発電はあるが)特に原発依存度の高い地域だっただけに、エネルギー問題はまったく解決しておらず、ひとまずは電力会社からの買い受けていたが、SMUDはそこから飛躍的変化を遂げ、電気事業者のモデルとして高く評価されることになる。


 SMUD総裁がTVA(ニューディール政策のあれ)時代に原発をいくつも廃止させ、省エネルギー政策の重要度を訴え続けてきたディビット・フリーマンになり、合理的な電力利用をSMUDはするようになる。
  • DSM(ディマンド・サイド・マネジメント)を本格的に採用、原発では不可能な、需要量に応じた、可変的な電力コントロール
  • 旧式なエアコンや冷蔵庫などの省電力製品の普及・開発キャンペーンと消費者への奨励
  • 省電力に協力してもらう顧客に対しての還元サービス
  • 建物の遮断・断熱対策に協力。相談サービスも行い、潜在的な省エネ量の発掘
  • 追い炊きなどの電力量を下げるため太陽熱温水器、ピークカットのための太陽光発電導入への奨励と補助
  • 「緑のエアコン」として植樹計画により、夏のピーク(昼)消費電力を抑え、ヒートアイランド現象の抑制、CO2削減、雰囲気を上昇させる
  • 電気自動車と太陽光発電を積極的に導入。一般家庭の屋根を借りて太陽光発電を設置するボランティア(こちらを参照)
  • 情報公開と広報の強化
 これらは一つの例で、SMUDは他にも多くのエネルギー効率化プログラムを打ち出した。これらを支えたのは、住民参加を積極的に導入したことにより、消費者の協力があったからに他ならないわけだが、これが出来るのは「公営」の電気事業者の強みでもあった。.
 公営だから大手に依存するしかなかったが、原発を導入することでその状況を脱したものの、それに失敗して原発を停めることになっても、自治体と繋がっているからこそ、より「総合的」な電力対策を採ることが出来た一つの例である。

 時代は変わり、電気事情も変わっていく。
 家庭的に若干損をしても太陽光発電パネルを付ける家庭も増えてきていることを考えたら、ひょっとしたら、発電所ありきという考え方さえまったく通用しない時代が来るのかも知れない。為政者はSimCityのプレイヤーと同じく、核融合などを待つわけだが、そんな宛もないことを期待するよりも出来ることがあるだろう。都市側の対策として、SimCity内では条例ぐらいしか対策がないが、SMUDのような形で電力対策は出来るハズである。
 現在はエイモリー・ロビンスが提唱した「ネガワット」と呼ばれる、「マイナスの電力を生む発電所(節電所)」を広めようとする動きがある。もちろん、それはそういった施設があるわけではなく、エネルギー効率を考慮して電気製品を選ぶとか、省エネ活動するとかで電力を抑えた分を「節電所の効果」として考える「仮想節電所」の考え方である。「省エネ」だと、とにかく抑えるイメージがついて回るのとは逆に、「節電所」だと「いくら分得をした」というのが行動の一端でもあるから、それがいいのではないのか、という話もあるのやらないのやら。


 原発は確かに必要な施設である。しかし、そんな流れの中未来までもSimCity と同じようにゲームのように繰り返されるだけでいいのだろうか?

※1・・・中部電力のサイトに原発燃料(ウラン)の高効率の説明があります
※2・・・現在行っている核廃棄物の「最終処理」は廃棄物を厳重に包んで埋めることである(レベルによって様々)。安全といえば安全かもしれないが、原発同様「何かあったとき」の信用があまりない。思想的には「将来の科学者が解決してくれる」と思っているという話もあるとか。技術の進歩よりも、今後はさらに受け入れる所が少なくなっていくことも考えられる。

参考文献:「アメリカの電力自由化 −クリーン・エネルギーの将来−」「エネルギー2002」「脱原子力社会の選択 −新エネルギー革命の時代−」「なぜ脱原発なのか? −放射能のごみから非浪費型社会まで−」「NIMBYシンドローム考−迷惑施設の政治と経済−」「ネガワット −発想の転換から生まれる次世代エネルギー−」「海外の電力事業」

参考Webサイト:
 さよなら原発神戸ネットワーク
 WIRED NEWS「原発事故のリスクを増大させる、原子炉の老朽化と人為的要因」
 (株)日本総合研究所 Japan Research Review「米国電気事業の規制緩和の動向」
 自然エネルギー推進市民フォーラム「月4ドルの未来への投資」
 中部電力
 
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