序章 はじめに〜なぜ、SimCityか



はじめに

 まず、コンピューターシミュレーションゲーム「SimCity」を取り扱うことになった理由について触れなければならないだろう。

 元々、SimCityが我がゼミナールにやってきたのは、「可児市民フェスティバル」という可児市の市民団体及び事業団体が主体となって行う手作りのイベント実施してみよう、という可児市の青年会議所から持ち込まれた企画に参加することが決まってからである。そのイベント参加のための催し物として初めにゼミ生が考えた案があまりにも固定概念にとらわれているような物が多いと一蹴されたので、思い切って都市を破壊することが仮想的に体験できる都市シミュレーションソフトSimCity*の最新作「SIMCITY 3000TM」を使い、可児市を再現することにした。これも若さがないといったら若さのない発想かも知れないが、都市と情報処理機械の組合わさったものとして安易に取り扱うことに決めたのは言うまでもない。


SIMCITY 3000 で作られた可児市
 イベントまでの数ヶ月、ホームページ作りを最優先させていたので、本格的にSimCityで可児市を再現しようと取り組んだのはイベントの2ヶ月ほど前であった。その頃になると大学が休みとなっているので、都市計画図や農業振興地図、可児市統計など様々な資料を家に持ち帰り黙々とSimCityでの可児市再現に力を費やした。名古屋市民の私は地図や写真だけではイメージがつかめずに何度も可児市へ足を運んで可児全域を走り回った事を覚えている。その成果もあって、前日までにはそれなりの物が完成した。こうしてみるとSimCityを研究テーマとして扱うようにと私に白羽の矢が立ったのは必然だったのかも知れない。

 イベントは事前に決めておくべきだったルールもあってないような物だったので必ずしも成功したとは言えなかった。しかし、一つだけ収穫があったとすれば、SimCityのような一見複雑化されたシミュレーションゲームでも、子供達にとってはそれを素直に受け入れる土壌が育まれていて、マウスだけの操作で出来るゲームならばほんの少しの説明で出来るようになるということである。これはSimCityという大学生も楽しめるパソコンゲームでも、子供達にすれば同じように楽しむことが出来るゲームであったという認識にも繋がった。思えばスーパーファミコン版のSimCityを初めてプレイしたときもこの子供達と同じように楽しみながら、発電所の効率やリスク、交通渋滞と都市の盛衰など様々なものを考えながら仮想的に都市経営を体験していた。「都市に住む」「地域に暮らす」普段何気なく体験していることも、実際は多くの複雑な事象が絡み合って時間とともに形を変えている。その見えない部分を本ではなく、現実とは違う時間を体験することが出来るSimCityというゲームソフトが非日常的な立場から我々に与えることが出来るのである。

 「都市は生き物である」と言われるように都市は様々な要素と要素が絡み合って成立され、しかも日々変化している。IT革命と呼ばれる産業革命、低迷し続ける経済、知識としてのみの教育、悪化する地球環境汚染、迷走し続ける政治など、これからの都市の展望を行うにはこの時代の変化への対応力と先見性のある広い視野を持つことが必要である。読書や課外活動によって得られる俯瞰も大事だが、刻一刻と変化する事象への対処とその予防が従来のように専門家だけではなく市民一人一人に求められていることではないだろうか。SimCityはあくまでも仮想的なシミュレーションモデルでしかない。しかし、それによって我々が現実の世界を知り、学習し、実際に還元することが出来るならばSimCityというゲームソフトをまちづくりへと利用することも可能なのではないだろうか。


研究会の立ち上げ
 
 SimCityを研究テーマとするに当たり松本教授の提案により、美濃学ゼミナールから都市シミュレーション学研究会(以下研究会)が立ち上げることになった。都市シミュレーション学というのはSimCityのようなシミュレーションを用いて広義の都市計画を含む各種の都市に関わる全ての要素を対象とし、複雑した都市システムの理解をしながら、新しい都市像を確立するという一連の作業を含む学問であり、その為の学習活動を喚起する。新しい学問の確立を目指すとともに、「まちづくり」の教育に携われることが出来るならば幸いである。
 
 発足から半年以上が経過したが、これといった業績はない。しかし、オンラインによる活動をベースにするための下準備とSimCity 3000 Teacher's Guideの翻訳は後々の活動に大きな影響を及ぼすことになるだろう。都市シミュレーション学研究会Webサイト「シムラボ」は一風変わったSimCityファンサイトとしての位置は変わっていないが、アクセス数も次第に増え、協力的な会員が増加している。活動内容も次第に研究を中心とした物となっているが、特筆すべきはそれを支えている会員が都市関連の専攻を持つ人たちではなく、年齢層も幅広いということなのである。これでは必ずしも学術的な研究とはなり得ないかも知れないが、それよりも今はまちづくりというものは参加の段階であり、より多くの人による自発的な参加が求められていることを考えれば成功していると言える。すなわちSimCityというゲームソフトがインターネットという公の空間で市民の意識化に繋がって、参加の段階までの誘導をしていることになる。まだまだその段階としては始めの方ではあるが、新しい社会教育と市民参加の流れとはこういった物になっていく可能性も少なくはない。これについては後で述べることになるであろう。
*SimCity・・・プレイヤーが市長となり都市を育成するシミュレーションゲーム。
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